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天狐あやかし秘譚

第111章 先用後利(せんようこうり)


顔を上げ、ギン、と男を睨みつける。

『木気・召雷針撃!』

ビシっと空を切って、針状の雷が私の額のチャクラから色情霊に向かって走る。そのへんの雑霊に近いそれは、文字通り針の穴ほどの雷撃であっという間に霧消した。

ついで・・・和田倉休憩室の石の壁に手をつき、それを媒介に土の術式を発動する。手に術者にしか見えない青白い光が灯る。それを右手に宿したまま、私は無言で男に近寄っていく。

「な・・・なんだよ・・」

私の気配にただならぬものを感じたのか、男は若干逃げ腰になる。しかし、女に馬鹿にされまいとする安いプライドのせいだろうか、座ったままの姿勢は崩さなかった。

お仕置き・・・なのです!

私は男の額に手をかざすと最後の呪言を唱えた。

『石意操動っ』

ブウンと土の術式に特有の振動音が響くと、『うぅっ!』と男の目が一瞬上転し、また戻った。戻った目は若干虚ろな感じになっている。

よしよし・・・かかったのです・・・

脳に作用する土気の支配術の中でも、最も初級クラスの術式だ。無防備な相手を一時的に従属状態に陥らせることができる。要は、何でも言うことを聞く状態にできる、というわけだ。

「あ・・・あなた一体・・・何を?」

私と男の不穏な様子に、外に出ようとしたのをやめた女性が話しかけてきた。彼氏の様子がおかしいことに気づいたのだろう。私の方に迫ってくる。

私が施したのは邪霊を払う木気の術と、先程言ったように、男の意思を一時的に従属させる土気の術式だった。もちろん、陰陽術のことは部外秘だから、これこれこういう術をかけましたよとは言えない。

どうしようかなと思ったが、よい言い訳を思いついた。

「私は催眠術師なのです」
「はあ?」

唐突に言ったので、にわかに信じられなかったらしい。女が不審そうな顔をする。

「普段は催眠を使ったカップルセラピーなどを行っているので、つい、お二人が喧嘩をしているのを見かねてしまったのです。」

話しながら、ちょっと際どい言い訳かなとも思ったが、女は私の姿を見て、男の様子をみて、何やら納得をしたみたいだった。私が、いつもながらのアフリカにいるシャーマンのような格好をしていたのが奏功したと言ってもいいだろう。
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