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天狐あやかし秘譚

第111章 先用後利(せんようこうり)


努めて優しく言ったつもりだった。
が、男の方はテンションが上っていたのか、それとも、元がそもそも嫌なやつだったのかわからないが、私の方をいかにも不審者を見るような目で見つめてくる。

その目つきもムカついたが、次の言葉はいけなかった。

「んだよ、おばはん・・・関係ねえだろ!」

おばはん・・・っ!?

ブチッとこめかみで何かが切れた音がする。
多分、このとき、私の唇はひくひくと震えていたと思う。妙齢の女子に向かって・・・な、何ていうことをっ!

こっちが黙っているのを、自分の言葉が響いた証拠と捉えたらしい男は、更に言葉を継いできた。

「男にもてねえからってひがんでんじゃねえよ」

ビシっ!

一瞬にして私の目が白目になる。

な・・・ん・・・ですってぇえ!!!!!!

唇を結び奥歯を噛み締めて、悔しさに耐えつつ、私は呪力を目に凝集し、男を見つめた。

何か・・・何か憑いていないか・・・何かぁ!!!

すると、男の肩口にぼんやりと邪霊が取り憑いているのがわかる。その性は『色』・・・要は色情霊だ。

見つけたのですぅ!

これで、さっきの会話の欠けている部分が埋まった。
男はどこぞで拾ってきた色情霊の影響を受けて、彼女にムリなプレイを要求していたのだ。今回も何らかの際どい『趣味的な』ホテルを取り、それに対して彼女が猛反対をした・・・ということだろうと想像ができた。

あれくらいの色情霊、本来は放っておいても全く問題ない。そのうち、おそらく彼の守護霊などが自然と打ち払ってくれるだろう。顔色が悪いところを見ると、今、彼は忙しいか何かで体力が落ちているために色情霊の影響を強く受けてしまっている・・・ということなのだろう。

それは・・・わかるのですがね!?
さっき言ったことの落とし前はつけてもらいますよ!

私はなぜこれほどまで男を凝視して邪霊を探したのか・・・。それは、『邪霊を払う』という建前があれば、『緊急執行』が成立するからだ。

これで『呪力不法行使』には当たらないのです!

ふふふふふ・・・覚悟しなさい!
私の乙女心を傷つけた罪は・・・重いのですっ!

私は顔を伏せ、小声で呪言を唱える。ブツブツ言っているのを見て、不審に思ったのだろう、男が更に私を煽ってきた。

「あ?どうしたおばはん」

まだ言うか!
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