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天狐あやかし秘譚

第108章 顧復之恩(こふくのおん)


右肩に担ぐように振り上げた刀を、渾身の力を込めて振り下ろそうとする。バランスを崩しつつも、左手を押し出すようにしてそれを防ごうとする十和子。その二人を、まばゆいばかりのヘッドランプが横から照らし出す。

「御九里!」

やっとのことで二人に追いついた九条が声を上げる。九条の目には、幹線道路に絡み合いながら飛び出した十和子と御九里に向かって、大型のダンプカーが突っ込んでくるところが映っていた。

危ない!

そう思った瞬間、クラクションと急ブレーキ音をけたたましく鳴り響かせながら、九条の眼前を大質量のダンプカーが通り過ぎていった。グチャリと肉が轢き潰される音、車体を揺らしながらスピンをし公園の外壁にダンプカーが衝突する破砕音が響き渡る。そして、それらが全て収まった後、辺りは一転して静寂に包まれた。

「御九里!」

道路際にへたり込むように座る御九里の名を再び呼びながら九条が駆け寄る。御九里自身は、目を見開いた姿勢で、前方を凝視していた。

そこには、手足がグチャグチャに引き裂かれ、頭の半分が潰された十和子の亡骸が、血溜まりの中に倒れていた。

「ギリギリ・・・避けたのか・・・」

目の前の惨劇はともかくとして、御九里が助かったことに、九条はホッとして言葉を漏らした。しかし、御九里は、ゆっくりと頭を振った。

「違う・・・違うんだ・・・」
彼の瞳は、目の前の光景を前に、微かに揺れていた。
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