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天狐あやかし秘譚

第108章 顧復之恩(こふくのおん)


ただ、猫神達に構ってくれたおかげで、御九里と十和子の距離が縮まったのは確かだ。この時点で、十和子にもっとも近かったのは、木気の強身術で筋力を増強していた御九里である。そして、その背後10メートルほど後ろに九条、更に大分遅れて日暮が続いているという形だった。

御九里が一足飛びに跳躍し、鬼丸国綱改で十和子に斬りかかる。あやかしの耐久力とタフネスを有する十和子も、さすがに右腕を失ったダメージは大きかったのか、先程よりも動きに切れがない。その隙を、御九里の斬撃が突いていく。

ギィン!

かろうじて御九里の斬撃を左手で受けながら、バックステップでなおも十和子は逃げようとする。十和子としては、ここさえ逃げ切ってしまえば、また闇に潜伏し、力を取り戻すことができる、という算段があったに違いない。

御九里もそれを読んでいたからこそ、体力と呪力の限界を押して追いすがり、切りかかっていっているのである。もはや、彼を支えているのは気力のみであった。

「絶対、絶対・・・逃がすかぁ!」

・・・俺は、あの時止められなかった・・・

左下からすくい上げるような斬撃を繰り出す。十和子はそれを硬化した足で押さえつけ、踏みつけて武器破壊を狙う。御九里は手首を返し右に刀を払うと、今度は刺突の構えに入る。

だから・・・ずっと、ずっと追ってたんだ・・・!

右腕を鋭く突き出し、その切っ先で十和子の喉をえぐろうとする。だが、十和子もまた、その軌道を読み、身をのけぞらせることで喉への直撃を避け、さらに、その刃を牙で受ける。刀を噛み砕かれそうになるのを直感し、御九里は慌てて刃を引くと、すぐさま体をコマのように右回転させ、彼女の死角である右体側めがけて、横薙ぎの斬撃を繰り出していく。

あんたには・・・これ以上・・・

ザシュっという肉を断つ音をたてる。しかし、胴を横薙ぎにするべく放った斬撃は、十和子が態勢を崩すという犠牲を払いつつも後ろに倒れ込むようにして身を躱した結果、胸を浅く切り裂くだけに終わり、致命傷にはならなかった。

十和子が、そのまま体を転がすようにして幹線道路に飛び出していく。間髪いれずに御九里もそれを追いかける。

「罪を・・・犯させたく・・・ないんだ!!」
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