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天狐あやかし秘譚

第108章 顧復之恩(こふくのおん)


その様子を横目に見つつ、『間に合え!』と御九里は念じていた。実際は、光刃が結界に到達するのと、結界がはち切れるのはほぼ同時に見えた。

光が弾け、一瞬、あたりが閃光に包まれ真っ白になる。
十和子の悲鳴、結界が崩れるバチッという破裂音、何かが肉を切り裂く音・・・それらが入り混じる。やがて、光は闇に溶け、目が効くようになってきた。

・・・どう、なった!?

油断なく刀を構えたまま、御九里がジリジリと十和子のいた場所に近づいていく。視界が晴れてくると、そこには、右腕が肩のあたりからバッサリと切り落とされた状態で、はあ、はあと苦しそうに喘ぐ十和子がいた。その目には怨嗟の炎がメラメラと燃え上がっている。

「ちっ!」
御九里が舌打ちをする。九条が慌てて金鞭を構え直し、日暮は一歩後ずさる。ちなみに田久保は、大きな木の陰に隠れて震えていた。

「まだだ!」
九条が叫んだのと、十和子が踵を返して駆け出すのが同時だった。弾かれたように駆け出す十和子を見て、慌てて御九里と九条が後を追う。日暮も追うが、戦闘員たる御九里や、万能型の九条ほどの脚力がないため、どんどんと置いていかれてしまう。

「はあ・・・ま・・・待ってぇ・・・ああ・・・っ!にゃ・・・ニャンコ先生!行って!行って御九里さんを助けてぇ!」

にゃあ、にゃあと日暮の足元にたむろしていた黒猫軍団が一気に走り出す。猫たちはすぐに御九里達に追いつくと、それを追い越し十和子に追いすがろうとした。この時、十和子はすでに公園を抜け、その裏手に走る幹線道路に差し掛かろうとしているところだった。

「ば・・・、馬鹿!」

御九里が声を上げる。右側からダラダラと血を流しながら疾走する十和子も、追いつこうとしている猫神達に気づいたようだった。

「く・・・来るな!」

右肩越しに振り返りざま、左手で一閃する。そこから生み出された衝撃波が、背後に迫っていた猫神達をことごとく跳ね飛ばした。

「ぶぎゃ!」「ぎゃっ!」

短い悲鳴を上げ、次々と猫神が吹き飛ばされ、あるものは樹に、あるものは地面に叩きつけられ、くたりとする。そもそもが戦闘向きではない猫神に人鬼を追わせるのは無理があるのだ。
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