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天狐あやかし秘譚

第107章 末路窮途(まつろきゅうと)


☆☆☆
はっと気がついた。
一瞬、戦いの最中に、俺は意識を飛ばしていたようだった。

ヤベ・・・何が起きた?

そう、鬼となった十和子の爪を刀で受けていたけれども、受けきれずに拳を受けて・・・

「あら?あなた・・・よく見たら意外といい男じゃない?」

目の焦点があってくる。意識がはっきりしてきて、やっと俺は自分が置かれた状況を理解した。俺は・・・彼女に組み敷かれていたのだ。

勝ちを確信したからだろうか、十和子の顔はもとの美しい女の顔に戻っていた。肌の色も赤銅色から抜けるような白に、そして、服もビリビリに破れていたはずなのに、いつの間にかもとに戻っていた。

・・・いい男・・・?

恐ろしいほど美しく整った、その顔。それはかつての『母』とは違う顔だった。おそらく妖力で姿形などどうとでもなるのだろう。そして、この顔が今のお気に入りってわけだ。こうして姿を変え、闇に潜み、15年間、日本のあちこちで男を文字通り毒牙にかけて『喰らって』きたのだろう。

すでに、自分の本当の顔も、名も・・・何もかも忘れてしまったのだろう。
塔若子ではなく、十和子として、鬼として生きた時間が長すぎたのだろう。

自分の顔を忘れたように、俺の存在も・・・

妖艶な笑みを浮かべ、俺のことを押さえつけている十和子がぺろりと唇を舐める。逃げようと身体を動かそうとするが、木気の術で強化されている俺の筋力を持ってしても、ピクリとも動かすことができないほどの力で押さえつけられていた。

「あら・・・逃げようとなんてなさらないで・・・?いい男はね、こっちを頂いてから、食べることにしているのよ?」

そう言うと、俺の両手を器用に左手一本で押さえつけ、股間を右手で弄ってくる。ついでにぺろりと首筋を舐め、耳に舌を這わせてくる。

「死ぬ前に・・・天国に連れて行ってあ・げ・る・・・・」

十和子の唇が俺の口元に迫ってくる。レポートの記述が頭を過った。被害者の奥田は死ぬ直前に肛門性交をした形跡がある・・・と。

とことん、男を憎んでいて、男を食い物にしていたあんたらしい・・・人間だったときの記憶の延長なのか・・・?

術を使おうにも手が使えないことには印を結べない。武器も遠くに弾き飛ばされている。手も足もガッチリと押さえつけられほとんど身動きができない。
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