第107章 末路窮途(まつろきゅうと)
突然襲われ、ワンボックスカーに押し込まれ、ぐるぐると市内を走り回った挙げ句、どこともわからない山の麓にある廃工場めいたところに連れて行かれた。
どんと『母』が突き飛ばされ、廃材がゴロゴロしている床に転がされる。俺達をさらった男は3人、しかし、そこには更に10人近い男がいた。
どいつもこいつもみすぼらしいなりをしていた。無精髭、ボロボロの服、壊れかけた靴を履いている者もいた。しかし、ある共通点があった。
憎しみのこもった目。
『母』を見る、怨嗟に満ちた眼差しだった。
包丁を、ナイフを、鉄パイプを、メリケンサックを・・・思い思いの武器を持って男たちがにじり寄る。目的は明らかだった。
復讐
皆、『母』に人生を狂わされ、破滅に追いやられた男たちだった。俺はこの時、『父』がこいつらを呼び寄せたんだと思った。
実際のところはわからないのだが、はっきり言って、誰が呼んだにせよ、俺達の窮地は変わらない。異常な興奮に目をギラつかせた男たちが俺と『母』を追い詰めるように歩み寄ってくる。
嬲り殺しにする気だ・・・
そう思った。
言葉も出ないまま『母』と俺は廃工場の壁際に追い詰められてしまう。ついに、一人が包丁を振り上げ、襲いかかってきた。咄嗟に顔を庇った俺の腕に鮮烈な痛みが走り、赤い血がぱっと中空に舞った。
まるで景色がスローモーションのように見えた。その男を皮切りに、次々と男たちが躍りかかってくる。その光景がゆっくりと、ゆっくりとして見えた。
恐怖を絶望が凌駕し、震えることさえなかった。
頭が痺れたようになり、耳がキーンとする。
俺はこの時、明確に『死』を予感した。
刹那・・・目の前に襲いかかってきた男の首が消えた。
身体だけがドサリと重力に従い、倒れる。頸動脈が切れたからだろう、首の切断面から大量の鮮血が吹き出し、その身体は首を失ってなお、不自然に痙攣をしていた。
男どもが悲鳴を上げ、一斉に踵を返す。
何が・・・一体何が起こった?
目の前に倒れた男の痙攣が終わり、動かなくなったころ、やっと俺は何かとてつもなく異常なことが起こっている、しかもそれは自分のすぐ隣で起きていることを悟った。
ゆっくりと右側を見上げる。そこには先程まで『母』がいたはずだった。
左手から血を流していた『それ』は確かに先程まで『母』だったモノだった。しかし・・・
