第107章 末路窮途(まつろきゅうと)
木元と女は変なところで気があったようで、よく共謀して詐欺を働いていたそうだ。まあ、どちらかと言うと、木元が女のヒモのような状態だったのだけど、最初の数年間はそこそこいい関係を築いていたようではあった。
二人は程なくして同棲を始め、そしてすぐに俺が生まれた。
もちろんそんな両親だ。俺の出生届など出すわけもない。飯を食わせてもらえたのだって、奇跡みたいなものだと思っている。
こうして、俺は場末の糞溜めみたいなアパートで、戸籍もないような状態でぎりぎり生きていたってわけだ。
だが、蜜月は短かった。もともと木元という男は、定職にすらついたことがないような人間だ。その性格もたかが知れている。最初の頃こそ優しいところもあったが、次第に女に辛く当たるようになり、詐欺で男たちから巻き上げた金も、あっという間に木元の酒代と博打でできた借金の返済で消えていくようになった。
もちろん、俺もただでは済まなかった。酔っ払って帰ってきた『父』は、『母』を蹴り飛ばす。その横で膝を抱えてその様子を無言で見上げる俺の目が気に入らないと、何発も何発も拳で殴ってきた。
俺は、何も言わなかった。いや、言えなかった。
今から思えば、心が凍りついたみたいになっていたんだ。
まるで、自分のことを少し上空から見下ろしているみたいで、殴られているのは『自分じゃない』なんて思ってすらいた。
幼いながら、自分の心を守るための心の不思議な機能だったのだと思う。
ある日とうとう、女は男の元を逃げ出した。もちろん、『子ども』である俺のためではなく、自分のためだ。俺はこの時8歳くらいだったと思う。この女についていく必要はないとは思っていたが、それでも他に頼るところがない以上、仕方がなかった。俺は、夜逃げ同然に家を出ていった女の後ろを、とことことついて行った。
女は特に行く当てがあったわけではないようだった。俺を積極的に守ろうとはしなかったけれども追い払おうともしなかった。幾ばくかの金は持っていたらしく、何かしらの食べ物は食べることができた。
こうして1週間ほど逃げ続けたある日の夜、俺と『母』は数人の男たちに取り囲まれて拉致されてしまった。
『何!あなたたち!』