第106章 貪愛瞋憎(どんないしんぞう)
刀を下段に構え、強烈な脚力で地面を蹴ると、一気に十和子との距離を縮める。十和子は一瞬目を見開いたが、すぐに気を取り直し、彼の下からすくい上げるような剣戟を後ろ飛びに跳んで避けた。
「何だ・・・お前は!」
十和子の声だった。しかし、それは先程までの色気のある女の声ではもはやなかった。嗄れている、男性とも女性ともつかない不気味な音となっていた。
「覚えてもいねえだろうし・・・覚えてても・・・もう、わからねえだろうよ・・・」
背後で襲われそうになっていた男性がやっと起き上がって公園から逃げ出したのを感じると、刀を正眼に構え、名乗りを上げる。
「宮内庁・・・陰陽寮陰陽部門・・・祓衆属の三位。御九里牙城・・・」
「ほう・・・陰陽師か・・・何年ぶりかの・・・」
闇の中、女が笑う。真っ赤な口を開き、目を紅の炎に染めて。
「覚えておいてくれ。あんたを祓う・・・男の名だ」
「は!青二才が・・・!」
文字通り鬼の形相をした十和子が、大地を蹴って、御九里に迫る。
鋭い爪が光る腕を振りかざし襲いかかってきた。