第105章 昼想夜夢(ちゅうそうやむ)
こんなことなら、あの時、きちんと私の気持ちを伝えておけばよかった。しかし、そう思っても、もはや後の祭りである。鬼たちの包囲網はミスリルの立つ位置から1メートルほどのところまで迫ってきていた。もう、彼らが本気で手を伸ばせば触れてしまいそうな位の距離だった。
ーも・・・もうダメ!!
百戦錬磨の実力を持つ魔術師ミスリルも、ここに来て恐怖には勝てなかった。とうとうぎゅっと目をつぶってしまった。ジリジリと後ろに下がり、ついに背中に冷たい洞窟の土壁を感じる。そして、これ以上、後ろに下がることができないことを悟った。
ー助けてっ!
目をつぶって祈る。祈る先は・・・まぶたに映るあの人だった。
『ガジョー!!!』
彼女は叫ぶように愛おしい人の名を呼んだ。それは詮方のないことのはず・・・だった・・・。だったのだが・・・
『ぐあぁ!!』
『ぎゃっ!』
『うわああっ!!』
鬼たちの悲鳴が聞こえる。そして、いつまでたっても自分に鬼の爪が届くことはなかった。
「ミスリル!!」
声がした。聞き間違えるはずのない声。もう、二度と聞くことはないと覚悟した声・・・
まさか・・・
ゆっくりとミスリルは目を開いた。途端、まばゆい月の光が、その瞳に飛び込んできた。天井が・・・地底の闇を形作っていた天井が、抜けているっ!?
そして、金の柄、銀糸をまとった美しい刀身を持つ愛剣ールミナリオーを掲げ、その月明かりに照らされて立っていたのは・・・
「無事か?ミスリル!?」
それこそ、ミスリルを愛した、ミスリルが愛した王国最強の騎士・・・
「ガジョー・・・」
その姿は、瞬く間にミスリルの目から溢れる涙で滲んでいく。安心した彼女が気を失い、ふらりと倒れそうになる瞬間、ガジョーはその力強い腕で、彼女を掻き抱くのであった。
◯ー◯ー◯ー◯ー◯ー◯ー◯ー◯ー◯ー◯ー◯ー◯ー◯
「きゃああっ!!!!」
最後の「。」を入力し、エンターキーを押した日暮は、すぐ後ろにあるベッドにダイブする。そのまま枕に顔を埋め、「きゃあ!」だの「ううう!」だの、奇声を上げながら、足をジタジタとばたつかせていた。