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天狐あやかし秘譚

第102章 能鷹隠爪(のうよういんそう)


☆☆☆
【同時刻:令和島にて】

「今何時?」
「20時40分」
「間に合うのか?」
「そう信じたいね」

煌煌と月明かりが照らすコンテナ倉庫街を前に、御九里と九条が辺りをうかがう。
御九里は相変わらずの黒系のパンクファッション、レザーのベルトが体中に巻き付いたような不思議なデザインで、肩のあたりにはシルバーの棘があしらわれている。一方、九条の方はラフな白シャツにダークグレーのチノパンという非常に爽やかなスタイル。同期である二人の陰陽師は、なんとも対照的なファッションセンスを見せていた。

二人は、日暮の消息不明の報を受けた土門から、その捜索及び救助を依頼され、この島にたった今、辿り着いたばかりだった。この島に来る、というところまでは日暮の式神『猫神』に託されたメッセージから読み取れた。

猫神が運んできたメッセージによると、「今夜、この島の何処かから坂本愛理が海外に売り飛ばされる」ことが示唆されていた。それ以外に、愛理が『薬』を手に入れたルートと思しき売人が数人特定されていた。売人の方は別の陰陽師の部隊が警察と協力して検挙に当たっているところだ。

メッセージが送られてきた経緯から、日暮はこの島に来ており、愛理を助けようとしたことは明白だ。いや、もしかしたら、居場所だけを特定し、陰陽寮に連絡を取ろうとしたのかもしれない。しかし、猫神を通じた連絡の後、日暮からの通信は一切ない。

なにか不測の事態があった、としか思えない。

そもそもが、こんな風に単独行動すること自体、普段の慎重、というか、臆病な日暮の性格からは考えられない、と土門は言っていた。

愛理の部屋から押収した『薬』が、飲んだ瞬間に術式を発動するための『紋』を浮かび上がらせ、周囲の不浄霊を吸引し、無理矢理に憑依状態を作りだすものだ、ということは、日暮の実験に立ち会った廣金から報告を受けていた。その時に、日暮が錠剤を「飲んだ」ことも土門には伝わっている。青は大して問題はないが、問題は黄色だという。

『おそらく、結界を張った研究室内にも多少の動物の不浄霊がいたのです。それによって、普段よりも『本能』に近い方向に日暮の判断が歪んだ・・・のです!』
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