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天狐あやかし秘譚

第12章 甜言蜜語(てんげんみつご)


そんな私の抗議の声を意に介さず、ダリはキョロキョロと浴室を見回している。
「ふむ・・・狭いな。これでは用が足りぬ」
ダリが立ったまま、右手の手のひらを下に向け、呪言を奏上する。

「ももしきの 大宮に満つ 月影よあれ
 恋ひしきは 明かぬ夜とぞ 君が目にあれ」

清らかな月明かりのような光が、ダリの手のひらから溢れた。突然のことに、私は小さく悲鳴を上げ、目を閉じる。

「良いぞ、綾音。目を開けよ」

ダリに促され、恐る恐る目を開けると。

何?これ!?

我が家の狭い浴室にいたはずが、煌々と月明かりの射す野外に身をおいていた。しかも、浸かっているのも狭い浴槽ではなく、広々とした露天風呂。山の中腹にあるのだろうか、月影の下には山々の影が黒々として見える。頭上には大きな木の枝が張り出しており、それが時折やわらかい風にそよぎ、葉擦れの音が聞こえた。

後ろを振り向くと、岩が平らに削られており、洗い場のようになっている。いくつか風呂桶や風呂椅子のようなものもある。もちろん、私達以外に人はいない。

まるで、高級旅館の露天風呂を借り切っているかのようだ。

ダリが、私の横にするりと入ってくる。
「ああ・・・なかなかいい湯だな」
そのまま全く自然な流れで私の肩にぐるっと腕を回し、抱き寄せてくる。
ダリが抱き寄せてきてくれるのは、正直嬉しいが、今日のあの意地悪な失笑を思い出してしまい、私はぷいっと横を向く。

そんな簡単に、許さないんだから!

「拗ねておるな、綾音」

そりゃ拗ねるわよ。だって、だって、本当に、ダリがピンチだって思っちゃったんだもん。それで、守らなきゃってがんばっちゃったんだもん。

「だって・・・意地悪するから」
ぶーっと顔をふくらませる。

「そのような顔も好きだぞ・・・それに」
好き、という言葉に不覚にも顔が赤くなる。ギュッと更に自分のみに引き寄せるダリの腕の力が強くなり、そのせいで、私の身体は湯船の中でほとんどダリに抱きすくめられるようになってしまう。

「誰かに守られる、というのは、1000年ぶりのことだ・・・」
どういう意味?とダリの方を向くと、あっという間に唇を奪われてしまう。
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