第1章
セバスチャンは微笑み彼女の様子を観察していた。
震える手、血走った瞳、微かな血の香り
吸血鬼の飢えを見抜いていた。
だが、急がない。まずは会話を続ける。
「ヴィクトリア嬢、この街の霧は確かに人を疲弊させますね。
私は仕事で各地を回っていますが、ロンドンは特別です。
お嬢さまはこの街の生まれですか? アクセントが少し異なりますね」
は警戒しつつ、会話に乗った。
彼の香りが気になる。
「遠い国から来たの。東欧の小さな村よ。
そこに比べるとこの国は賑やかだわ」
セバスチャンは軽く笑い、核心を避けた。
「お嬢さま、グラスが空ですね。もう一杯?それとも、休まれますか?私の宿泊先が近くにあります。静かでゆっくりできる部屋ですよ」
次こそは、上手くやらなきゃ。
彼の香りは奇妙に魅力的だ。
少しの緊張感が、二人の間に漂う。
は警戒しつつ、頷いた。
「……ええ、お願いするわ。少し休みたいかも」
二人は酒場を後にし、セバスチャンの宿泊するという高級宿屋へ向かった。
は平然を装うが、足取りがふらつき、息が荒い。
セバスチャンは見透かしていたが、口には出さなかった。
部屋に入ると、セバスチャンは静かに鍵をかけた。
はベッドに腰掛け、息を整えた。
セバスチャンは椅子に座り、穏やかに話し始めた。
「ところで、ヴィクトリア嬢。灰の事件をご存知ですか?」
は体を硬くした。
「灰の事件?知らないわ。ごめんなさい。」
「最近若い男性たちが失踪し部屋に灰だけが残されるという事件です」
「……そんなことがあったのね。でもなぜその話を?」
セバスチャンは微笑みを深めた。
「あなたの仕業ですよね、ヴィクトリア嬢。いえ、この名も偽名なのでしょう?」
は息を呑み、立ち上がろうとした。
「違うわ! なんてことを仰るの……?」
セバスチャンは静かに続けた。
「とぼけなくても結構です。あなたは吸血鬼。
血を吸い尽くしてしまい、相手を灰に変えてしまうほど、飢えが制御できなくなっている」
の赤い瞳が動揺する。
「……どうして?知っているの?」