第1章
セバスチャン・ミカエリスは燕尾服の裾を優雅に翻しながら街の酒場や宿屋を回っていた。
失踪した男性たちの足取りを辿り目撃証言を集める。
セバスチャンはそこに残る匂い。甘く、血の香りが微かに混じる独特のものを嗅ぎ分けていた。
「吸血鬼……しかも、飢えが暴走している。」
彼は面白そうに微笑み、次の酒場とへ向かった。
一方、は限界だった。
部屋に閉じこもって数日。
渇きが体を蝕み、理性が溶けていく。
喉が焼け、腹の奥が疼き、手が震える。
「もう、耐えられない。」
の顔は蒼白でやつれ、赤い瞳が血走っていた。
でも、外へ出ればまた灰を生むかもしれない。
後悔が胸を刺す。
それでも、欲求が勝った。
「次は...上手くやれるはず...」
震える手でメイクを整え髪を巻いた。
今夜の偽名は「ヴィクトリア」
コートを羽織り、酒場へ向かった。
歩く足が重く、視界がぼやける。
平然を装うが、体は熱い。
酒場に入りカウンターに座るとワインを注文した。
グラスを握る手は微かに震えていた。
周りの男たちはの美貌に視線を送る。
はグラスを口に運び平然を装って周りを見回した。渇きが喉を締めつけ、息が浅くなる。
そこへ、一人の男が近づいてきた。
燕尾服を完璧に着こなしている男は
長身で黒髪が整えられている。人間離れした美しさだ。
は一瞬、何か違和感を覚えた。
香りが、人間ではない?
でも、飢えすぎて頭がおかしいのかも。
は警戒しつつ、平然を装った。
「失礼します、お嬢さま。一人で飲んでおられるのですか? 」
は微笑みを浮かべ、手の震えを隠すようにグラスを置いた。
「えぇ、そうよ。あなたはこんな酒場で燕尾服なんて珍しいわね。」
「執事の仕事で、この街を訪れているのです。
お嬢さま、顔色が優れませんね。体調が悪いのではないでしょうか?」
は内心で警戒した。見透かされている?
でも、飢えで体が熱く、集中できない。
平然を装い、軽く笑う。
「ありがとう、気遣ってくれて。ヴィクトリアよ。
ただの疲れよ。ロンドンの霧が、息苦しいだけかも」