第1章
空は灰色に覆われ、霧が庭を薄く包んでいた。
門の前で、一台の馬車が静かに止まった。
黒い馬車——装飾が豪華で、東欧の貴族を思わせる。
馬車から降りたのは、一人の男。
金色の長い髪、深紅の瞳、白いコートを優雅に羽織った長身の美男子。
彼の気配は、冷たく甘く、屋敷の空気をわずかに変えた。
玄関で応対したのは、セバスチャンだった。
完璧な執事の微笑みを浮かべる。
「ご来訪、ありがとうございます。お名前を伺えますか?」
男は静かに微笑んだ。
「ヴラド・ドラキュレスだ。
ファントムハイヴ伯爵との取引先への挨拶で訪れた。
アポイントは入っているはずだが」
セバスチャンはすぐに確認した。
確かに、予定表に東欧の貿易会社からの訪問が記されていた。
担当者が所用で来られなくなり、代わりにヴラドが訪れたという。
「承知いたしました。こちらへどうぞ。」
セバスチャンはヴラドを応接室へ案内し、シエルを呼んだ。
シエルは執務室から現れ、冷たい視線でヴラドを観察した。
「ファントムハイヴ伯爵だ。取引の挨拶か。」
ヴラドは優雅に頭を下げる。
「ええ。弊社の担当者が急用で来られなくなり、私が代わりに。伯爵の事業には、いつも興味を持っています。」
仕事の話は、表向きはスムーズに進んだ。
貿易ルート、商品の流通。シエルは冷徹に対応し、セバスチャンは給仕を完璧にこなした。
話が一段落ついた時、セバスチャンが静かに切り出した。
「ところで、ヴラド様。
そういえば、同じお名前の方から手紙が届きましたが、
宛名がこの家にいない方でしたので、破棄させていただきました。
差出人は、あなたでしょうか?」
「……ああ、そうでしたか。間違いだったのかもしれせんね。」
シエルとセバスチャンは、の存在を隠そうとしていた。
ヴラドの視線が、屋敷の奥を探るように感じるが、
二人は表情を変えず、会話を仕事に戻した。