第1章
ヴラドの手紙から、数日が経っていた。
あれからの心は霧のように曇っていた。
朝、セバスチャンが昼食の用意を呼びに来る。
はぼんやりと返事をするだけ。
「……ええ、すぐ行くわ」
鏡の前で髪を整えても、手が止まる。
ヴラドの名前が、頭から離れない。
あの男の気配が、遠くから心を重くする。
渇きが、少しずつ強くなっている。
セバスチャンの血で抑えていたはずなのに
すぐ乾く…あの灰の事件の時みたいだ。
食堂で、シエルたちと食事を取る。
セバスチャンが気にかけてか、話しかけてくる。
「様、今日のスイーツはどうですか? 」
は無理に微笑む。
「……ええ、おいしいわ。ありがとう。」
フォークを動かすが、味がぼんやり。
上の空で、周りの会話が遠く聞こえる。
シエルが気づき、尋ねた。
「どうした? ぼんやりしてるな。」
「……なんでもないわ。少し、疲れてるだけ。」
午後、チェス盤を前にシエルと対局するが、集中できない。
手が遅れ、読みが浅い。もちろん、シエルの勝ちだ。
「今日は僕の勝ちだ。やっぱり調子悪いのか?」
は苦笑い、
「……ええ、ちょっとね。」
庭に出ても、花の香りが薄く感じる。
黒猫が寄ってくるが、撫でる手が止まる。
ヴラドの影が、心を重くする。
いつ来るのか。
どうやって逃げるのか。
渇きが、胸の奥でうずく。
皆の笑い声が、遠い。
夜、部屋で一人。
渇きが強くなっている。体が熱い。
いつものようにセバスチャンが入ってきた。
はセバスチャンを抱きしめると、
そのまま牙を立て、血を吸った。
セバスチャンは彼女を抱きしめ、背中を優しく撫でる。
吸い終えたは口を開いた。
「……最近、すぐ渇くの。灰の事件の時みたいに。」
セバスチャンは彼女を抱きしめたまま、静かに言った。
「心配いりません、様。
私がいる限り、いつでも血をお与えします。」
は彼の胸に顔を寄せた。
「……ありがとう、セバスチャン」
セバスチャンは彼女を抱きしめ続け、
穏やかな夜を過ごした。
だが、渇きはまたすぐに戻ってくる予感がした。