第1章
ファントムハイヴ屋敷の朝は、いつも通り穏やかだった。
使用人たちが朝食の準備に追われ、シエルは執務室で書類をめくっている。
そんな中、郵便物が届いた。
セバスチャンがトレイに載せて持ってきた一通の手紙。
宛先は、。
差出人の名前を見て、は顔を強張らせた。
「ヴラド……」
手が震える。
なぜ、彼がここに手紙を?
英国に、ファントムハイヴ屋敷に、自分の居場所を知っているはずがない。
セバスチャンが心配そうに声をかけた。
「様、どうかなさいましたか?」
は無理に微笑み、手紙を受け取った。
「……なんでもないわ。ありがとう、セバスチャン。」
部屋に戻り、はベッドに座って手紙をじっと見つめた。
まだ封は開けていない。
名前だけで、過去の記憶が蘇る。
金色の檻、退屈で息苦しい日々。
読みたくない——でも、読まなければ。
しばらくして、ノックが響いた。
セバスチャンがお茶のトレイを持って入ってきた。
「様、お茶をお持ちしました。
……お顔の色が優れませんね。大丈夫ですか?」
は明らかに動揺していた。
「……ええ、大丈夫よ。少し、疲れてるだけ。」
セバスチャンはトレイを置き、彼女の様子を静かに見守った。
「何かあれば、すぐに私をお呼びください」
彼は部屋を出て行き、は一人残された。
意を決して、封を開けた。
『やっと見つけたよ、僕の愛しい花嫁。
君は永遠に僕のものだ。
近いうちに、迎えに行くよ。 ヴラド』
短い文面。
だが、は絶望した。
体が冷え、視界が揺れる。
逃げて、逃げて、ここまで来たのに。
見つかった。
夕食の時間。
セバスチャンが迎えに来たが、は首を振った。
「……今日は、部屋で過ごす」
セバスチャンは心配そうに言う。
「わかりました。何かお持ちしますか?」
「ありがとう。大丈夫よ」
は微笑みを無理に作った。