第1章
ぼーっとして、何も考えられなくなる。
快楽の波が、ゆっくり押し寄せる。
それまでの疲れが一瞬にして無くなったかのような気分だ。
なんだか、ふわふわとしていて
幸せな気持ちが一気にこみ上げてくる。
でも、は吸血鬼の体質で、完全に溺れなかった。
男はベッドまでよろめき、倒れ込んだ。
「嬢……最高だよ…………」
何か言っているが、酔いと薬で呂律が回らず、聞き取れない。
はくらくらする頭を振り、立ち上がった。
ここから出なければ。
は男の荷物を漁った。
仕事用のメモ帳だ。
取引先のリスト、会社名、船の名前。
頑張って、手元の紙に模写する。
文字が歪むが、何とか書き写す。
正しく書けているのかもわからない。
メモを鞄に戻し、残りの錠剤をポケットに忍ばせた。
男を見ると、すでに意識はどこかへ行っていた。
身体が思うように動かない。焦点が合わない。
はなんとか部屋を出た。
廊下で、壁に寄りかかる。
酒と薬のダブルパンチ。
視界が回り、体がふわふわする。
朦朧とした意識の中で、無意識に呟いた。
「……セバスチャン」
そして、意識を手放した。
体が崩れ落ちる。
ホテルの外での戻りを待っていたセバスチャン。
──ふと、微かな声が聞こえた。
そんなわけないのに。
しかし、の匂い。
彼女の、甘くて、魅惑の香りを感じた気がした。
セバスチャンは影から飛び出し、ホテルの廊下を駆けた。
「様!」
セバスチャンはすぐに抱きかかえた。
蒼白な顔、荒い息。
薬の影響だ。
セバスチャンはの額に優しく唇を寄せた。
そして、強く抱きしめたあと、
そのまま抱き上げ、影に溶け込んだ。
セバスチャンは屋敷へ、急ぐ。
は無事に屋敷へと連れて帰られた。