第1章
数日後、シエルから正式な要請が下った。
ロンドン郊外の豪邸で開かれる、貴族と実業家が集う大規模な社交パーティーへの参加。
目的は、海外から流入する新型麻薬の流通ルートを探ること。
「依存性が極めて高く、溺れた者はゾンビのように廃人となる」
シエルは冷たく説明した。
「その組織に通じる人物が、今夜のパーティーに参加している可能性が高い。ターゲットはこれだ。」
差し出された写真には、とある男が写っていた。
表向きは貿易商として成功しているが、裏で麻薬に関わっている疑いがあるという。
は頷いた。
「わかったわ。任せて」
パーティー当日。
は深紅のイブニングドレスをまとい、宝石を控えめに輝かせていた。
黒髪を優雅にアップにまとめ、唇は鮮やかな赤。
絶世の美貌が、夜の闇に映えていた。
馬車の中で、シエルが最後の確認をした。
「無理はするな。情報が取れなければ、それでいい。」
は微笑んだ。
「大丈夫よ。男を落とすのは、得意なんだから」
会場は華やかだった。
弦楽四重奏の調べ、香しいワインと料理。
貴族たちが仮面のような笑顔を浮かべ、社交の舞踏を繰り広げる。
が入場すると、すぐに注目を浴びた。
「どなたかしら、あの美しい令嬢は?」
「ファントムハイヴ伯爵の遠縁だそうだ」
囁きが広がる。
はグラスを手に、優雅にゲストたちと挨拶を交わした。
会話は軽やかで、笑顔を振りまく。
シエルとセバスチャンは、近すぎず遠すぎない距離で彼女を見守っていた。