第1章
セバスチャンは静かに扉を開け、ベッドを覗く。
はまだ眠っていた。
黒い髪が枕に広がり、長い睫毛が静かに閉じられ、唇がわずかに開いている。
穏やかで、無防備な寝顔…。美しい。
セバスチャンは、頰が緩むのを感じた。
「……なぜだ?」
自分でも疑問に思う。
悪魔である自分が、こんな感情を抱くとは。
には悪いと思いながら、そっと肩に手を置いた。
「様……お目覚めの時間です」
それは優しい声だった。
はゆっくり目を開けた。
セバスチャンを見て一瞬、体を強張らせた。
昨夜のキスの記憶が、鮮やかに蘇る。
頰が熱くなり、視線を逸らす。
「……セバスチャン。」
部屋に、ぎこちない空気が流れた。
二人の間に、沈黙が落ちる。
セバスチャンの手はまだ肩に触れたままだ。
やがて、はベッドから起き上がり声を絞り出した。
「……準備して向かうわ。出てて」
セバスチャンは手を離し、静かに頭を下げた。
「……失礼いたします。」
扉が閉まり、は一人残された。
胸を押さえ、深呼吸。
「……落ち着いて。」
準備を済ませ、執務室へ向かう。
とシエルのチェス対局が始まった。
だが、結果はの惨敗だった。
読みが浅く、手が遅れる。
盤面を睨んでも、集中できない。
セバスチャンの姿が、視界の端にちらつく。
シエルは容赦なく詰みを決め、満足げに笑った。
「……今日の僕の勝ちだな。調子が悪いのか?」
は苦笑いして言う。
「……集中できなかったわ。また明日ね。」
は足早に部屋へと戻った。