第1章
最近、シエルとセバスチャンを慌ただしくさせていた事件はようやく片付き、屋敷はいつもの静かな日常を取り戻していた。
ただ、とセバスチャンの間だけは、どこかぎこちない空気が残っていた。
表面上はいつも通り。
だが、目が合う瞬間に、微かな緊張が走る。
が屋敷に来てから一ヶ月。
もう彼女は客人ではなく、住人だった。
対外的には「シエル伯爵の遠縁の令嬢」という立場にされ、来訪者があっても違和感のないよう配慮されていた。
その日、屋敷では小さな夕食会が開かれた。
貴族や実業家など、数名のゲストを招いた立食式のパーティー。
広間はシャンデリアの光に輝き、テーブルにはセバスチャンの手による絶品の料理とワインが並ぶ。
は美しい紺色のドレスをまとい、ゲストたちと会話を弾ませていた。
お酒を軽く口にし、料理を味わいながら、社交的な笑顔を振りまく。
彼女の美貌と知性に、ゲストたちは自然と引き寄せられた。
そのうちの一人、若い実業家の息子が、明らかにアプローチしてきていた。
青年の顔立ちは整い、会話も巧みだった。
「嬢、あなたの瞳は本当に美しい。
今度、二人でオペラでもいかがかな?」
興味はなかった。
確かに顔は良かったが、心が動かない。
は社交辞令だけで返した。
「ありがとうございます。でも、私はあまり外出しないので……」
その様子を、給仕をしながらセバスチャンが静かに見ていた。
パーティーは無事にお開きとなり、ゲストたちが馬車で去っていった。