第1章
はすぐに浴室でシャワーを浴びた。
街の埃と、人間の血の残り香を洗い流す。
体は清潔になったが、心の物足りなさは消えない。
ベッドに横になり、古い小説を開く。
ページをめくる手が、どこか落ち着かない。
広間から声が聞こえてきた。
シエルの少し疲れた声と、使用人たちの出迎え。
どうやら帰宅したようだ。
は起き上がり、広間へ顔を覗かせた。
シエルがコートを脱いでいるところだった。
「おかえりなさい、シエル。セバスチャンも」
シエルは軽く手を上げ、
「……ああ、ただいま」と返した。
メイリンが駆け寄り
「坊ちゃん、お帰りなさいですだ! 」
フィニアンも「今日もお疲れ様です」と
心配そうに声をかける。
シエルは「大したことない。いつもの仕事だ」と短く答えた。
セバスチャンは傍らで静かに頭を下げていたが、を見た瞬間、どこか難しそうな顔を向けた。
その瞳に、普段とは違う影。
それに気づいたは少し胸がざわついたが、
「……お疲れ様。ゆっくり休んでね」
と言って部屋に戻った。
ベッドで読書を再開した。だが集中できない。
セバスチャンのあの表情が気になる。
やがて、静かなノックが響いた。
「様、失礼いたします」
入ってきたのはセバスチャンだった。