第1章 初恋
治はすでに食べ終わった弁当などを両手に持ってパンを加えながら屋上を出ていった。
…せやて、こんな話聞いてどないしたかったんか。
せやからて、俺は主将や。だめなもんはだめやて注意せなあかん。
「角名、ちょっとええか?」
部活終わり、今日は鏡花が用事あるから言うて先に帰った。
「なんですか?俺、何もしてないですよね」
俺からの呼び出しは全部説教になるんか。
「別に人の恋愛にどうこう言うつもりは無いねんけど、場所と時間を考えとき。学校はあかん。他のやつに見られるなんて角名は嫌やろ?」
「……そーっすね」
「わかったならええ。ほなおつかれさん」
「でも、……北さんならいいですよ?鏡花の全部、見られても」
「…何言っとんねん」
あの記憶がフラッシュバックされる。
「鏡花ってド変態なんです。だから見られながらヤるのってもっと興奮するんじゃないかなって思ったんです」
「…は?」
角名の言っている意味がようわからん。
「北さんは特別です。明日の放課後教室に来てください。見せてあげますよ」
「おい、角名。お前自分が言ってることわかっとんのか?」
「どうせ叶わない恋なんです。諦められないならさっぱり振られるよりも夢見て振られたほうがいいと思いますよ?」
どうせ、叶わない恋。頭の中に響く。
「ヤるときあいつ目隠しするんで声でも出さなきゃバレませんよ」
欲というものが、腹の奥からふつふつと煮立ってくる。
「……そんなん、お前になんのメリットがあんねん」
「鏡花のためです。言ったじゃないですか、あいつド変態だって北さんが思ってるようないい子ちゃんじゃないですよ」
わからへん。一体、角名が何をしたいのかわからへん。
「……俺は行かへんよ」
小さな声で、ぼつりと呟く。
「じゃあ鏡花に行っときます。北さんは鏡花のこと好きやって」
「おま!自分が何言うとんのかわかっとるんか!」
つい、柄にもなく声を荒げた。
弱み、というものを角名はすでに握っていた。
だめだ。言われては。もうこの友達の関係は続けられない。もっと傷つく。
鏡花だって、きっと困ってしまう。
「俺には断る理由がわかんないんです。得しか無いじゃないですか」
…別にヤるわけやない。
ただ、見るだけ。
見るだけ。
あれを?俺が?生で?
口が、勝手に動いた。
「…………待っといてや」
