第1章 名を呼ばう
ハンジの次に オフィーリアを「 オフィ」と呼んだのは、ペトラ・ラルであった。
ペトラと オフィーリアは歳が近い。女性同士という事もある。彼女達が親交を深めるのは当然の事のように思えたし、何よりそれはリヴァイにとってもそう「悪くない」事だった。
リヴァイが特別作戦班を任されるにあたって、その班員のひとりにペトラ・ラルを選出したのは、言うまでもなくペトラの実力のみを評価しての事である。しかし、ペトラが特別作戦班に選出された兵士としては唯一の女性であった事、また彼女が世間一般的な価値観と照らした際に間違いなく「かわいい」と評されるに値する容姿であった事が悪い方向に噛み合った結果、ペトラにはいまだに、根も葉もない癖に悪意だけは一丁前な噂が付き纏っている。
則ち、ペトラはリヴァイの情婦なのではないか、といった類の噂だ。
そのような事がある筈はない。
リヴァイ率いる特別作戦班は、どのような作戦に於いても最も危険な任務に就く事が常である。そのような班に情を交わした女を迎える男など――好いた女を自ら死地へと誘う男など、何処の世にいるものか。少なくとも、リヴァイにそんな趣味はない。いまのところは。
無論、上官としてであればリヴァイはペトラ・ラルという兵士を高く評価しているし、信頼もしているし、好ましい人柄だとも思う。彼女はエルド、グンタ、オルオに勝るとも劣らぬかわいい部下である。
だが、それはそれであり、これはこれなのだ。
あのような噂、ペトラの兵士としての実力と誇りを土足で踏み躙る最低最悪の風評だ、と言うリヴァイの認識が覆る事はない。いや、誰に対しても立てるべき悪評ではないだろう。
故に、そうした悪口雑言には惑わされず、心のままにペトラを尊敬し、慕う後輩が彼女にできた事は、「悪くない」事であろうとリヴァイは思うのだ。