第1章 名を呼ばう
「 オフィ」
彼女―― オフィーリア・ シダルをはじめてそのような愛称で呼んだのは、ハンジ・ゾエであった。
“変人の集まり”と悪名の高い調査兵団に於いても殊更の奇人変人として知られるハンジだが、その実の彼女は存外に人好きのする性格をしている。つまらぬ先入観に惑わされる事を良しとせず、常に本質を見極めてそれを理解しようと務めるハンジの姿勢に、ついうっかりと絆されてしまう者は後を絶たない。かくいうリヴァイもそのひとりであったので、彼はハンジが新兵を気安い愛称で呼びはじめた事を知っても、「いつもの事」としてそれを処理した。
いや、兵士長という役職に在る立場としては、分隊長という地位に在るハンジが一介の新兵を愛称で呼ぶというのは決して歓迎できた所業ではないのだが、その辺りをつつくと、あのクソメガネの事だ。「そういう君だって私の上官じゃないか、リヴァイ兵士長殿?」などとクソな反論をしてくる事は目に見えていた。そこに蛇が潜んでいると明白な藪をわざわざつつく趣味などリヴァイにはないのである。