第1章 名を呼ばう
踵を返した オフィーリアの背に、何とはなしにリヴァイは視線を送った。
どこか子供らしい華奢さの残る背が背負う紋章は、交差した2本の剣――そう。オフィーリア・シダルは、厳密にはまだ訓練兵のガキなのである。にも関わらず、どいつもこいつもこのガキに期待し過ぎだ。「最初の壁外調査から生還出来て、はじめて一人前の調査兵」。それが調査兵団の不文律ではなかったのか。確かに オフィーリアは既に何度か壁外に赴いてはいるが、せいぜいが日帰りでウォール・ローゼの外周をチョロついた程度だ。それを……
止まらなくなりかけて、リヴァイは舌打ちをする事で半ば強引に思考を中断した。
「―― オフィーリア」
「は……え、は、はい!」
「……なんて面しやがる」
「申し訳ありません」とこうべを垂れた オフィーリアに、リヴァイは再び舌打ちをする。
「お前、明日はハンジの手伝いで壁外だったな。
だが、お前の淹れる紅茶は悪くない。
明後日も頼む」
「……? ……!
はい!」
リヴァイの言葉の真意、即ち「生きて帰れ」を察したのだろう。
花が咲いたように笑った オフィーリアから視線を逸らして、リヴァイはまた、「悪くない」紅茶に舌鼓を打つのだった。