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弥栄

第8章 置き土産



霜降が間抜けた声を出してまた雨露にはたかれた。

「お前はちょっと黙ってろ!空気が読めんなら口を挟むな!」

「ええ?読んどるだろうが?こら正真駆け落ちだろうよ」

「誰も反対しとらんのに駆け落ちになるか!」

「そらまだ誰も知らんからよ。知れたら反対するわ。誰も彼も」

霜降の言葉に一時皆が黙り込んだ。
鬼鮫はそれをよそに淡々と湯呑みの白湯を飲み干した。

「そうなりゃいよいよ駆け落ちだなぁ」

霜降の呟きに雨露はもう怒る気もない様子で溜め息を吐き、ちらと霜刃を見た。
霜刃は端座したまま微動だにしない。どこを見ているか分からない目でただ座っている。

大枯がふいと笑って、小枯を見た。

「そういうことかよ。本当にいいのか?」

「…良くなくて行く私だと思うか?」

小さな声で小枯が答える。

「そうだなぁ。お前はそういう奴だもんな」

寂しさを隠そうともしない大枯に雨露が笑う。

「馬鹿だな。壱の長になろうって奴が泣きべそかいてどうする。しゃんとせんかよ」

「べそなんぞかいとらん。文をつけるな」

「ならこれからかくとこか」

「うるさい。…客人」

すっと身体を後ろに退げて大枯が床に両の拳をついた。

「小枯をよろしく頼む」

鬼鮫をじっと見た後、深々と頭を下げる。

「それは置き土産を受け取ると、そういうことですかね?」

「…そういうことだ」

「大枯…」

口を挟みかけた雨露を目で止めて、大枯はもう一度、鬼鮫に深々と頭を下げた。

「よろしく頼む」

話は決まった。

鬼鮫は胡乱に笑いながら、頷いて見せた。




















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