第8章 置き土産
番はそもそも霜が捕らえたもの。ならばまた霜が捕らえるのがいい。
「しかしふたりで捕らえられるものですかね?」
鹿は二頭、人手はふたり、ひとり一頭ずつ穏便に連れされるものなのか?
「凍みも霜も皆里を出るのは目立っちまうからな。その間大枯と霜刃には狩りをしていて貰う」
雨露の言葉に霜刃が舌打ちし、大枯も露骨に嫌な顔をした。
このふたり、全く仲が良くないようだ。
「人手は欲しいが皆が皆動ける訳でもない。何しろ里にも俺らのしていることを知られる訳にはいかないのだから」
大枯が首を振るのに鬼鮫は眉を顰めた。
「里を自立させようという目論見でしょう?賛同する者もありそうなものですが」
危ない橋を渡るのは凍みと霜にしても、手を貸す人手はあって悪くない。
「駄目だ。里の上には和良と切れたら都合の悪い連中がいる。誰から何処へ話が流れるか知れない状況を作る訳にはいかない。だから俺たちだけで動くんだ」
成る程。それは例えば、初枯の親族である神成連。そしてそれを擁する參の牟礼。
「雨露と霜降は日頃からよく山を下りているから不自然ない。比べて大枯と霜刃は立場に加えてそもそも腰が重い。滅多と里の外へ行かぬふたりが揃って動けば目立ってしまう」
小枯が鬼鮫に説明した。
大枯と霜刃が揃って小枯を睨む。腰が重いと言われたのが気に障ったのか。
「一番目立たなくて警戒されないのは誰か分かりますか?」
不意に鬼鮫が全員を見回して尋ねた。
座がしんとなる。
小枯だけが険しい目で鬼鮫を見た。敢えて見返さず、鬼鮫は小枯を除く全員を見回した。
「私ですよ」
「駄目だ。これはあんたに関わりないことだ、鬼鮫」
鬼鮫の話を切ろうと腰を浮かせた小枯の肩を、鬼鮫の大きな手が抑えつける。
「ここまで話を聞いて関わりがないと言っては目覚めが悪くなる」
鬼鮫はまた、小枯を除いた全員を見回した。
「鹿の番を奪う手伝いをしましょう。ー礼を言う筋合いも恩に着る必要もありません。これはこの人をあなたたちから奪う代価、置き土産なのですから」
鬼鮫の掌の下で抵抗していた小枯の肩から力が抜けた。
「悪い話じゃないと思いますよ?私の気が変わる前に返事をした方がいい。どの道私はこの人を連れてここを出るのですからね」
「…はぁーあ。駆け落ちてのは本当かぁ」