第8章 置き土産
それはまあ、不敬に値する。
そんなことの為に宝珠を貸し与える大名などいない。
恩着せがましく鄙びた里にー大名からみれば和良とてもその程度のものだろうー手も届かないような宝珠を貸し与えたのだろうが、その思い上がりへの意趣返しみたように、和良はわざわざ獣の飾り物としてその"御大層な預かり物"を弄んでみたのだろう。
馬鹿な真似をしたものだが、大名に知られることがなければどうということもない。
知られさえしなければ。
「親切に教えてやろうというのだ。大名の宝珠の使い道を」
ひとりで答えを弾き出した鬼鮫に、それを察した霜刃が詰まらなそうに言う。
得心した様子の鬼鮫へ急激に興味を失ったようで、また繋がれた手に目を戻し、ふっと笑って黙り込む。
「ふた番の宝珠を鹿ごと連れて大名に目通りを願うつもりだ。山でこんな不思議な鹿を見つけた、是非献上奉りたいってよ」
雨露が忌々しげに霜刃を睨みながら話を続けた。
「それにゃあ初枯の持つ宝珠と、和良の里長のとこにいる番の鹿を手に入れにゃならん」
「あの番は和良の里長の自慢の種だからなぁ。牝鹿の班と牡鹿の角が素晴らしくて、誰彼となく見せびらかしてるってのが専らの噂だから、大名も見覚えてるだろうよな。本当に、あの番は良い番だもの。和良になんぞくれてやるのではなかった」
ちょっとズレたことで歯噛みする霜降に雨露が渋い顔を向ける。
「だがまあ、良い金にはなったろうよ。狩ったわしらさえ金子の高は知れんが、経巡がちっとばかり潤ったのは事実だ」
「それが何に使われているかは神のみぞ知るだがな」
霜刃が面白くもなさそうに言い捨てて腕組みした。
「まず壱に南天を初枯に会わせる」
唐突に手筈について話し出した霜刃を、雨露だけでなく大枯まで睨みつけた。まだ鬼鮫にどこまで話すか決めかねていたのだろう。ふたりに焦りの色があからさまに浮かんでいる。
「これには南天に会って話す必要がある。これも小枯にしか出来んこと」
霜刃が小枯を見る。小枯は頷いて難しい顔をした。
「南天に渡りをつけ、言い含めねばならんということだな」
「初枯を里に入れる訳にはいかん。と言って、南天を連れ出すには本人の意思がなければ難しい」
大枯が溜め息混じりに言うのへ小枯がふーんと唸った。
「意思さえあれば何とか出来ると?」
「わしらで手引きするしかあるまいよ」
