第8章 置き土産
「ご尤も」
頷いた霜刃を雨露がきっと睨みつける。霜刃は平然と雨露を見返して、眉を上げた。
「勝算のないことに手を貸す気はない」
「ないと思うか」
大枯に問われて霜刃は煩わし気な表情を浮かべた。
「企ての中心はお前と雨露だ。俺に聞く馬鹿がいるか」
大枯がだからお前は嫌いなんだと顔に書いて、霜刃から雨露に目を移した。
雨露はふうんと鼻を鳴らして笑った。
「ならまあ、霜刃が手を貸してもいいと思えるもんを出さなきゃならんな。そりゃそうだ」
「小枯が里を出るなら俺もここには残らん。意味がない」
小枯が驚いて霜刃を見た。鬼鮫はその視界を塞ぎたくなったが耐え、でも小枯の手を握った。小枯の目が鬼鮫に移る。何なら全員の目が繋がれた手に向けられたが、鬼鮫は頓着しない。霜刃の視線が殊更痛い。だが構わない。だから何だというのだ。今小枯の手を握っているのは霜刃ではない。鬼鮫だ。
鬼鮫は小枯を見返し、大枯を見た。
「あなたたちがどう動こうとしているかを話してもらわなければ私は動きようがない。好きに動けというのなら何とでもしようはある。しかしあなたたちは事を丸く収めようとしているのでしょう?ならば説明が足りなすぎる。保身に走り過ぎれば事は破綻する。いい加減腹を括ってくれませんかね?時間がないのならば流暢なことをしている場合ではない筈です」
「何とでもしようがある?」
大枯が一瞬、揺らいだ。すかさず雨露が前に出た。
「何ともして貰わんでいい。これはこっちの問題だ。あんたに助て貰えるのは有難いことじゃあるが、そっちの理屈をこっちへ持ち込むのは真っ平御免被る」
鬼鮫は口辺を上げて雨露を見た。
成る程、暁を知っているのも伊達じゃない。この男と繋がっている限り、大枯は外部からの圧で大きく足を踏み外すことはないだろう。
「なら尚更事情を話して貰わねば。私は本来あなたたちがどうしようと関わりのない身です。私が聞く耳を持っている内に話せることは話しておくことですよ。さもなくば、私は私のやり方を押し通す」
「大名と直接繋ぎをとる」
ここで霜刃があっさり言った。ぎょっとした大枯と雨露を尻目に霜刃は続ける。
「その為に初枯の持つ宝珠が必要だ」
「どう使うのです?」
鬼鮫の問いに霜刃が凄いような笑みを浮かべた。
「大名の預けた宝珠を鹿の飾りに使うのは不敬に当たらんかね?」
