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弥栄

第8章 置き土産


「それこそ霜刃、お前の言ってることこそお前の理屈だ。お前ひとりの理屈に付き合ってる場合じゃねえんだよ。ひとりの理屈より大勢を生かす理屈だ。このまんま黙って指を咥えてりゃどの道経巡は和良に食い潰されちまう」

「何なら俺が行こうか?」

口を挟んだ霜降を雨露がぽかりと殴った。

「お前が行って何がどうなるんだよ、馬鹿垂れ!呼び出されてお前がいたんじゃ初枯もびっくりするわ!」

「霜降一人で行かせればいい。収まりがいい」

「お前も黙ってろ、霜刃!頭を使うのを止めるな!だからお前を小枯に関わらせたくないんだよ!」

伸びた手が何か掴もうとうろうろしている。
湯冷ましの入った湯呑を持たせてやると、一旦手が引っ込んでまたすぐ空の湯呑が突き出される。鉄瓶の湯を注いでやれば、そろそろと湯をこぼさないよう、手は慎重に引っ込んだ。

それを見送って、鬼鮫は大枯を見た。
同じく手を見送っていた大枯が鬼鮫の視線に気づいて目を上げ、ちょっと照れくさそうに笑った。場違いだが気持ちはわかった。
小枯が回復する気を見せているのに安心したのだろう。
削れたまま食べるのも飲むのも進まない小枯は見ていて怖い。

大枯と鬼鮫の間に小枯がもぞもぞと割り込んで来た。狭い隙間に小枯は窮屈そうに座り、今度は炉端で焼けていた川魚をとった。

「私は里を出るよ」

熱い串を指先で持ち、川魚を吹き冷まして小枯は穏やかに切り出した。

雨露が、霜刃が、大枯が息を呑む。
霜降だけが自分も川魚を食べ始めた。全部食うなよ、俺も分も残しとけよと言いながら、小枯に握り飯の皿を回してやる。

「初枯を探しに行こう。いや、初枯に会いに行こう。行って話をして来るよ」

里に戻るなと言いに。

「初枯に何を伝えたいのか、教えてくれ。私は経巡の伝書になろうよ」

握り飯を霜降へ戻して小枯は欠伸をした。

「企みがあるならそれもいい。私の知る必要のあることだけ教えてくれ」

霜降が小枯に湯呑をくれと手を伸ばす。小枯は目の前に並べられていた湯呑をひとつとって鉄瓶の湯を注ぎ、霜降へ渡した。

「もとから里を出ることは考えていたんだ」

傍らの鬼鮫を見上げて、鬼鮫に見返されて、小枯は耳を赤くした。

「だから…役に立たせてくれ。それが経巡の為になることなら」

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