第8章 置き土産
さっきからひっきりなしに手が伸びては饅頭を掴み、また引っ込んで伸びて来る。山積みだった饅頭の山がみるみる削れて小さくなっていく様が小気味いい。
「…そういうこったよ。真っ当にばかり動いて何とかなるもんでもないからな。口を割らない仲間内でことを進めたいし、そうすべきだ。心もとない橋を渡ろうってのに、大勢引き連れる必要はないからな。第一それじゃ橋が落ちる」
雨露が額を撫でて、疲れた顔を見せる。鬼鮫は左の口辺を僅かに上げて頷いた。
「いい判断だと思いますよ?転覆を試みるには基本的で悪くない戦略です。何より失敗したときの犠牲が最小限ですみますからね」
「最小限だからいいってもんではないわ。犠牲はないに限る。縁起でもねえこと言うな」
苦々し気な雨露に鬼鮫は目を細めて先を促した。
「俺らは俺らで、やることがある。狩りとは別によ。それにも人手が欲しい」
もし鬼鮫が推察した通りこの連中が最終的に大名に繋ぎを取りたがって里を立て直そうとしているのなら、しなければならないことは一つ二つではない。時間も人手も足りないのが実情で、本来なら小枯も里から出している場合ではないのだろう。
初枯が出奔していて、小枯は助かったといえる。雨露たちの計画にまともに組み込まれたら、小枯はどう使われ、どう削れたかわからない。
大名に繋ぎが取りたいならそれなりに大仰な理由が必要になる。当たり前だ。簡単に会える相手ではない。
それをひと月弱で準備する。
本来なら不可能だろう。初枯の起こした騒ぎに乗じようとするのは正しい判断だ。貧弱な経巡に、こんな好機は恐らくもう廻って来ない。
「まあ里の変革には下地も手数がかかるでしょうしね。小細工も必要でしょうし」
鬼鮫に言われて雨露がちょっと顎を引いた。
「あんた、小枯を引き受けてくれるかね?」
最後の饅頭がすっと消えた。
「俺が行く」
霜刃が短く言って斬るような目で雨露を見た。
雨露は首を捻って、難しい顔をした。
「言ったろ。お前にも抜けられたら痛いんだ、本当のところ。しかもお前は小枯のことになるとネジが外れる。回り道してる時間はねえんだよ。この客人が引き受けてくれるのが一番収まりいい。お前は次善の案。最適解じゃあねえ」
「それはお前の理屈だ」