第8章 置き土産
「お前はなまじ同じく働いた気で小枯を見るから話にならない。この里の者は皆そうだ」
霜刃が無表情に吐き捨てるように言った。
「そこには俺も含まれる。見苦しい話よ」
霜刃のきつい物言いに霜降が口を噤んだ。大枯も霜刃から目を逸らした。
「あのな」
雨露が盆の窪を書いて胡坐をかいた足を組み直した。
「ことを急ぐには凍みと霜の話も絡む。経巡は何方かが不在の冬を越すことが出来んのだから」
ここで雨露は鼻息を漏らして、眉根を寄せた。
「霜の代替は用意出来る」
霜降がもの言いたげに顔を上げたのを目で押さえ、次を続ける。
「だが大物狩りの凍みの替わりは難しい。霜で長くやってきたわしらが継ぐしかないんだ。これはお互い好きだ嫌いの話じゃない。ただ、そうしないと里が立ちいかなくなるって話よ」
これを聞いて霜降は口を引き結び、霜刃は何故か笑った。笑った霜刃に霜降が驚いてちょっと身を引く。霜刃は依然姿勢を崩さず、真っすぐ前を見たまま笑いを閉ざした。
「霜も凍みも替わりは何とでもなる。狩れぬ者は死に、狩れる者は餌を持ち帰るだけのこと。誰がそれを代替しようと俺らがしていることと結果は何ら変わらん。里が立ちいかなくなるのもあることよ。経巡だけの話ではない。大名だとて何れは落ちぶれ、その名も忘れ去られようよ。なくて廻らないものはない。手放してしまえば初めからなかったものになる。もうそれでいいのではないか、雨露よ」
「お前がよくたって、それじゃ世界は廻んねえだよ。ちっさい子供や体の弱い者、年寄りはどうする?それを抱えて放り出される連中だってよ?簡単に言うな、馬鹿」
雨露がここに来て初めて鬼鮫を見た。
「本当のことを言や霜刃を里から出すのは頂けない。今の霜が欠けるってことは、そのまま凍みが欠けることに繋がりかねない。初枯はいないし小枯はこの調子、大枯は春には祝言を上げて里長の補佐に収まっていずれは里長になる。今の凍みはなくなる。そしたら霜がまるっと凍みになるしかねえ」
鬼鮫は雨露の視線を受け止めて笑った。やっぱり霜刃を持ち出したのは揺さぶりか。
「里を維持する戦力を削らずこの人を里の外に出すために外部の力が必要だということですね。成る程それは正解ですよ。たまたま使えそうな私という部外者もいることですしね」