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弥栄

第7章 手筈



陽が落ちるまで小枯は炉端で丸まって眠り続けた。

夕飯はこの寄合所に運ばれて来るという。今夜は凍み鎌も霜鎌も、鬼鮫もここに泊まることになる。

…泊まる?この小枯もか?

多分そうなのだろう。今までもそうして来たに違いない。当たり前のように。

幾つからこの凍み鎌という環境に身を置いていたのか知れないが、小枯はずっと男女の別のない環境で過ごしてきたのだろう。色々なものを削りながら。

笑う小枯は可愛い。そして、温かく柔らかい。抱き締めれば細く、撫でれば骨に触る。手は冷たく、いつも隈を浮かべて疲れ、寝れば寝相が悪く、食べれば大食いだ。黒い括り髪は腰まで伸び、切れ長で深い二重の目を薄くて長い睫毛が控えめに彩っている。声は低く通りがよく、耳触りがいい。子守歌でも歌えばさぞ優しいだろう。

年相応におちついているときもあれば、妙に無邪気で無頓着。そして無防備。よく笑い、疲れてさえいなければよく話す。本音は独語で吐く癖があるようだ。だがそれを聞き拾う者はいない様子。もしそういう者がいれば、小枯は独語に本音を託すような孤独な女になっていない。

そして時雨。

これが厄介だ。時雨に削られ続けたせいで、小枯は自分が何なのか今一つ掴めていないように思う。周りも同様だ。疲れに振り回され、不機嫌になり、度を越した大食いをして昏々と眠る。これは小枯の本質ではない。なのにそれに時間をとられ過ぎて、本来の小枯でいられる時間が削られている。身も削られ続けている。それを小枯も周りの人間も当たり前のこととして捉えている。

小枯はまず自分を真っ当に取り戻すべきだ。

今すぐ隣で鬼鮫の外套の下で深い寝息を立て、力なく丸まる小枯は時雨に蝕まれた小枯。

そう思うと腹が立った。無闇に。

今すぐ小枯を連れて里を出てやろうかと思う。造作もないことだ。小枯自身の意思を無視するのなら。
けれどそれをすれば小枯は鬼鮫から離れて行くような気がした。

面倒な。

何でそんなことを気にしなければならないのだ。
そう思うとまた腹が立つ。かといって小枯を置いて行くつもりは全くない。山を下りて小枯と別れる気も全くない。どのような形であれ、小枯に干渉するのを止めるつもりはなかった。
例え小枯が霜刃と里を出ようが、また里に戻ろうが、里の外で新しい生活を始めようが。

小枯との”次”を手放す気は全くない。
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