• テキストサイズ

弥栄

第7章 手筈



「やーめーろって!わかった!私が悪かった!悪かったから止めてくれ!」

真っ赤になった両の耳を手で隠して、小枯が目を吊り上げた。
初めて見る表情だ。悪くない。
鬼鮫は目を閉じた。昂りを抑えて呼びかける。

「小枯」

呼べば耳を押さえたまま、小枯が何の気なしに鬼鮫を見返す。

「何」

ぶっきらぼうで、でも柔らかな小枯の声。

鬼鮫は小枯に掌を差し出した。

「一緒に里を出ましょう」

始めからこれだけが言いたかった。

後のことはどうでもいい。いや、どうとでもしてやる。

小枯が理由を欲しがるなら幾らでもくれてやる。どんな理由でもくれてやる。その理由を嘘にもしないでもやろう。その理由以上に里を出て良かったと思わせてやろう。

生きていて良かったと思わせてやる。

この私の、傍にいて良かったと思わせてやる。

小枯が耳から手を離した。

差し出された鬼鮫の掌をじっと見、鬼鮫の目をじっと見、一旦目を閉じて口を開きかけて何か飲み込み、口を引き結んでやっと、おずおずと冷たい手を、鬼鮫の手にのせた。

骨ばって荒れた力強い手。小さいが決して弱くはない手。弱くもないが、強いだけでもない手。

それを握り締めて鬼鮫は血が湧きたつような思いを覚えた。

生きていて良かったと思わせてやる。






























/ 117ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp