第7章 手筈
「やーめーろって!わかった!私が悪かった!悪かったから止めてくれ!」
真っ赤になった両の耳を手で隠して、小枯が目を吊り上げた。
初めて見る表情だ。悪くない。
鬼鮫は目を閉じた。昂りを抑えて呼びかける。
「小枯」
呼べば耳を押さえたまま、小枯が何の気なしに鬼鮫を見返す。
「何」
ぶっきらぼうで、でも柔らかな小枯の声。
鬼鮫は小枯に掌を差し出した。
「一緒に里を出ましょう」
始めからこれだけが言いたかった。
後のことはどうでもいい。いや、どうとでもしてやる。
小枯が理由を欲しがるなら幾らでもくれてやる。どんな理由でもくれてやる。その理由を嘘にもしないでもやろう。その理由以上に里を出て良かったと思わせてやろう。
生きていて良かったと思わせてやる。
この私の、傍にいて良かったと思わせてやる。
小枯が耳から手を離した。
差し出された鬼鮫の掌をじっと見、鬼鮫の目をじっと見、一旦目を閉じて口を開きかけて何か飲み込み、口を引き結んでやっと、おずおずと冷たい手を、鬼鮫の手にのせた。
骨ばって荒れた力強い手。小さいが決して弱くはない手。弱くもないが、強いだけでもない手。
それを握り締めて鬼鮫は血が湧きたつような思いを覚えた。
生きていて良かったと思わせてやる。