第7章 手筈
「…あんたは優しい。自分じゃわかってないだろうけど優しい。だから、名前を預けた私を気にしすぎてしまっているんじゃないか?あのな?大丈夫。私は強い。自分を大事に出来る」
熊を狩って削れたあと、私は私を大事にするぞと声を上げた小枯を思い出す。相変わらず口だけでそのやり方はわかっていないように見える。見えるのに言い張る。
そういう小枯が可愛い。鬼鮫は溜め息を吐いた。
「私はあなたが強いから名乗ったのでもなければ弱いから山を下りようと提案しているのでもない」
鬼鮫は一度小枯を離して、改めてその顔を覗き込んだ。
疲れた顔。深い隈。
「まして優しさであなたを縛ろうとしている訳でもない。私があなたを縛るなら、そんな生温い真似はしませんよ。生憎私はあなたのいうような優しい男じゃありませんからね」
「そうか?優しいと思うけどな。触り方が優しい」
至極真面目に言う小枯に鬼鮫は瞠目した。
「そういうものの言い方は止めなさい。誤解を招く」
「本当のことを言ってるのに誤解も何もないだろ」
「わかりました。わかりましたから黙って話を聞きなさい」
「何だ。褒められると都合が悪いのか」
「…あなたの触り方は無防備で幼くて危険だが…優しくなくもない…」
「は?」
「狩りをするあなたは…美しくなくもない」
「?何言ってるんだ、あんたは」
「…居心地の悪さを味わって貰おうかと思ったのですが」
「…ああ、そういう…しかし残念ながら伝わり辛いぞそれじゃ。半端なことを言うと反って自分が恥ずかしくならないか?まあ確かに別の意味で居心地悪くはなるけどな。共感性羞恥って奴だ。共感するぞ、鬼鮫。その恥ずかしさに。物凄く共感する。正直に恥ずかしい」
「…そう思うんなら黙りなさい。それが思いやりというものです」
「自爆しといて何を言ってるんだか…」
小枯がおかしそうに声を立てて笑った。
それだけで何がなし嬉しくなって、鬼鮫は自分に驚いた。驚いた拍子に本音が出た。
「笑顔が…馬鹿げて可愛い」
「………」
小枯は笑いを引っ込めてまじまじと鬼鮫を見、天井を見上げ、俯いて耳を真っ赤にした。
「…よし。わかった。あんたの言いたいことはよくわかった。ちょっとこういう話は止めておこう。完全に脱線してる」
「寝相が独創的で面白い」