第7章 手筈
ちらちらと小雪の舞い始めた村の道を足早に歩み、寄合所に戻るといきなり目に鮮やかな青が飛び込んで来た。
一瞬身構えるも、それが小枯を包んだ羽織と気付いて鬼鮫は目を眇めた。
小枯の深い寝息の呼気に合わせ、青い羽織が規則的に上下する。深く眠っている。
隣にいって覗き込むと、行く前より目の下の隈が深くなったように見えた。
炉端に湯呑がふたつ。畳んだ竹皮から仄かに味噌の匂いがする。
霜刃が居たのだ。
鬼鮫は小枯から青い羽織をとり、替わりに自分の外套を掛けた。
羽織は囲炉裏に突っ込んでやろうかとも思ったが、止める。過剰に反応しては思う壺に嵌る気がした。
仕立ても物もいい羽織だ。長く着ている気配。丁寧に見苦しくない修繕が繰り返されている。由緒を感じさせる。
小枯の頭に触れる。まだ猪の血でごわつく髪を摘み上げる。小枯は起きない。
背中を撫でる。小枯が深い息を吐いて身動ぎした。しかし目覚めない。
鬼鮫は小枯から手を放し、拳を握り締めた。
熊を狩った後とは大違いだ。あの時は毛先に触れただけで目覚めたものを。
いや、しかし夕飯をとってから寝た小枯は非常識な寝相で転げ回り、一向に目覚めなかった。ではこちらが常態なのか。
しかし、明らかに行く前よりは疲れている。
何があった?霜刃から話を聞いたとして、だからと言ってこうも疲れるものか?
話をする以外の何か。
小枯を削る何か。
鬼鮫は改めて傍らに置いた羽織を手に取り、土間へ投げ捨てた。
炉の熾き火が爆ぜて炭が僅かに崩れる。
鬼鮫は熾きの赤い火を見ながら考え込んだ。
この騒ぎを利用して里を変革するとして、先ず考えるべきは初枯から和良の宝珠を取り返すこと。これが空に浮いたままでは何一つ立ち行かない。恐らく大枯たちは宝珠を盾に何らかの交渉をする気でいる。
だが、誰と?何の交渉か。
和良の里長ではないだろう。
大枯は経巡を和良に頼らない里にしたいと言った。その為には和良を踏み越えなければならない。和良は豊かな里だ。貧しい経巡を下に見ている。はなから対等に見ていないものの交渉になど応じまい。
この騒ぎの核は宝珠。持ち主は大名。
大枯たちは和良の頭越しに大名と直接繋ぎをとろうとしていないか?和良が不敬にも"失くした"宝珠を持って。
しかしどう話を持って行くつもりだ?
気付くと考えながらずっと小枯の頭を撫でていた。
