第7章 手筈
「預かり物ということはいずれ返さねばならぬ物ということだ。期限がある筈」
こめかみを揉みながら独り言するように言った小枯へ、霜刃は笑って見せた。
「年の末には戻す約束」
「それは焦るな。しかし馬鹿な真似を。下らないものを借り受けて下らない使い方をしたものだ」
山の生き物を里の金子の嵩で飾り立てて何になる。ーいや、背反するもの同士だからこそ美しいと捉えるのか。それにしても度し難い。
「金持ちの見栄は俺らには計り知れない」
霜刃が懐から手を出して、自分の分の白湯を注いだ。
「知らんでいいことは世に思うより多く溢れているものだ」
「知りたくもないこともな。溢れに溢れて溺れそうだ」
顰め面をした小枯に霜刃の手がぴくりとする。
触れたい。
このところこうして向き合って会えていなかった。触れても小枯は拒否しない。疲れて跳ねのけることはあっても、絶対拒むことはしない。
触れられることを何とも思わないから。
ならば触れてもいいだろう?
小枯に触れられる意味はなくとも、俺には触れる意味がある。
「和良は初枯を年内に差し出さねば今後一切の取引を止めると言ってきた」
ぐっと手を握り締めて霜刃は話を続けた。
「まあそうだろうよ。どうすれば経巡を往生させられるかなんて考えるまでもないだろうからな、和良は」
和良との交流が絶たれれば経巡は外貨を獲得する術をほぼ失う。
「いよいよ名実ともに三山家になるしかないか」
苦笑いした小枯を霜刃は真っすぐに見、首を振る。
「一度覚えた贅沢はそれが些細なものであっても簡単に搔き消されるものではない。和良が経巡を見限れば里を抜けるものが増え、この里はいずれ消えよう」
「消える前に和良に買収されるだろ。実際そういう動きは今までだってそちこちに透けて見えている。そうして和良はますます大きく栄えていくって訳だ。大名さえ怒らせなきゃな」
「そこが肝。だから和良は焦る」
「それで初枯は高額のビンゴブッカーになった」
「引き渡さねば里が潰れる」
「どっちにしろ潰れそうなもんだがそれが早まる訳だな。経巡は和良に頼り過ぎた」
「和良も共倒れ」
「初枯が宝珠を返さなきゃな」
「返す気があるならそもそも盗らぬ」
「何故盗った?」
「里を抜けて新しい暮らしをする為。南天と共に」
「南天は神成連との縁談があるんだろ。胸糞悪い」
