第7章 手筈
「お前が嘘ばかり言うと決めたならそれはお前の本当だ。俺だけに向ける本当になる」
「…気分が悪くなってきた。吐く」
「それは気分が良くなってきたということか。ならば話を続ける」
蝸牛の殻のように固く丸まった小枯に霜刃はちょっと笑った。
「俺を遠ざけようとしても無駄だ。俺は思い詰めるとしつこい」
「狩りに向いてるよ、お前は」
「今吐けば俺がそれを清めることになるが良しか?」
「誰が吐くものか」
「その意気だ。最後まで話を聞け」
先刻の笑みの残滓を口元に残したまま、霜刃はまた小枯に触れた。肩にそっと掌をのせる。まだ温かい。確認してちょっと息を吐く。
「ここからは他言無用」
「わかったよ」
小枯がうんざりしたように体を起こした。
「何か食うもの持ってないか」
頭を掻きながら言う小枯に霜刃が懐から取り出した竹包みを渡す。開くと中には味噌をつけて焼いた握り飯が三つ。
大きな握り飯を二口で片づける小枯に、霜刃はまた鉄瓶から湯呑に白湯を注いで差し出した。それを啜って小枯は溜め息を吐いた。
「今までだって十分他言無用だろうが、馬鹿」
「わかっているならそれで良し」
またふっと笑って、霜刃は両の腕を袖に潜らせ、懐で腕を組んだ。
「初枯が和良から掠め盗ったのは鹿ではない」
「戻ったくらいだからそうなるだろうよ」
食べ終わった竹包みを畳み、両手を合わせてまた白湯を啜る小枯に霜刃はそれまで強張らせていた肩から力を抜いた。
小枯の目の下が真黒い。湯呑を握る手へ怖いほど鮮やかに骨の輪郭が浮かび上がっている。
「和良に譲った番の鹿は対になる宝珠を身に着けていた」
小枯の手は触れれば冷たく、荒れている。が、削れていないときは熱いほど温かい。今はきっと白湯の熱でも癒せぬほど手は冷えているだろう。
霜刃は次の白湯を鉄瓶から注ぐ小枯をしげしげと見ながら話を続けた。
「きな臭くなってきたな。初枯は和良の宝を盗んだか」
苦々し気に言う小枯へ、霜刃は首を振ってみせた。
「ただの宝珠ではない。大名からの預かりものだ」
「…それはまた…」
白湯をごくりと音を立てて飲み込み、小枯が湯呑を路端に置いた。
「…話が飛び飛びに大きくなったな…」
「そういうことだ。和良の元へ戻ったのは宝珠を着けぬ牡鹿」