第7章 手筈
「では何だ?何に500両もの金をかける?」
初枯が里長の牡鹿を奪い去っただけなら、その牡鹿が戻った今、和良はねちねちと経巡を甚振って山のような毛皮や材木を強請り取るだけでいい。経巡の持つ資源ではこのふたつが一番金になる。それを安く買い叩く口実が出来たようなものだ。
初枯に高い賞金をかけてビンゴブックに載せるまでもない。
むしろ載せないことを盾にとれば経巡で伐採を取り仕切る神成連の跡取り息子である初枯をネタに、何時までも気のすむままに経巡の材木を好きなように買い漁れる筈だ。
まあ最も欲の皮と権勢欲の突っ張らかった神成連のこと、そうなれば早々に初枯を放逐させるだろうが、その方が初枯にとっても幸せだ。
初枯はずっと里を出たがっていたのだから。
それなのに初枯は高額のビンゴブッカーになっている。初枯は里長から何を掠め取った?
「和良は初枯を引き渡せと言って来ている」
「無い袖は振れん。初枯の居所は誰も知らないのだから」
それが初枯の守りになる。よくぞ黙って出奔した。捕まるな、初枯。
「だが初枯は戻って来る」
霜刃が長い腕を組んで小枯を見た。
「お前だってそう思っている筈」
南天と初枯の睦まじさは里の誰もが知るところだ。
参の牟礼の神成連の跡取り息子と、参の牟礼の山神に仕える巫女の南天。
小さな頃からいつも一緒だった似合いのふたり。
小枯の胸が痛んだ。
陽だまりで寄り添いあって眠る、艶やかに愛らしく尊げな獺の番のような、初枯と南天。
この世のいいもの、この世の温かさ、この世の優しさ。
壊されていいものじゃない。
けれどもし、初枯が自分でそれを踏み壊すようなことをしたのだとすれば?
「初枯も南天も馬鹿じゃない」
霜刃が詰まらなそうに言った。
こいつは興味がないものを口に上らせると馬鹿正直に詰まらなさそうにする。
里随一の似合いのふたりに、霜刃は全く興味がない訳だ。
「俺と違って」
すぱっと投げ遣りに続けた霜刃に小枯は目を伏せた。
「…いや、悪かったよ。別にお前だって馬鹿じゃない。むしろ賢い。大層賢い…んだろう?まあ、ただちょっと…わかり辛いだけと言うかこう…変だよな?お前」
「そうか。有難う」
「そういうところが変だと言っている。今誰がお前を褒めた?頭が良すぎて話がふた山も先まで飛んでいるのか?」