第7章 手筈
霜刃が頭が切れるとか女にモテるとか言っていた大枯の見識を疑う。
こいつはかなり深刻におかしい。こんなに押しつけがましい訳のわからない奴だったか?
何に焦っているんだ。後で聞くから、ちょっと待ってくれ。
半刻でいい。眠らせろ。
「和良の里から遣いが来た」
…和良か…。
少し離れたところで隣国への通用になるなだらかな山を一つ囲って栄える豊かな里だ。経巡に比べれば何でも揃っている大きな里。
山は拓かれて恵み豊かではないが、湯が多く湧いて他から人がよく訪れる。隣国の湯の国からさえ頻々と湯治に訪れる者のある、金になる湯だ。所謂やんごとない身分の者も逗留することがあると聞く程。
経巡も湯は湧くが里の者が楽しめる程度、外の者を楽しませてまだ余りある和良の湯には遠く及ばない。
和良の山宿で湯治し、体を休めて腹いっぱい食べるのが小枯の一族の悲願だ。
我が一族ながらいじましい。その悲願を叶えた者がないのがまた切ない。
まあ、暇も金もないのだから仕方がない。
更に和良は通用に利のある土地柄を活かして広く交易している。豊かだ。分限者も多い。
経巡の外貨も和良から入るものが多い。
だから経巡は和良に頭が上がらない。そして和良は経巡を軽んじている節がありありと、ある。
そのお大尽様が経巡に何の遣いだ。また愛玩用に鹿か兎でも狩れというのか。それとも狐や貂の毛皮が欲しいか。
「お前の考えるような単純な用ではない」
気に障る奴め。
「以前俺たち霜が生け捕った番の鹿を覚えているか」
ああ、覚えているとも。山の祝いを受けたような、それは美しい番だったもの。
「あれは山宿近くの和良の里長の屋敷で放し飼いされていた」
贅沢な話だな。鹿を放し飼うほど山の土地を占有するか。金持ちのすることはわからない。敷地内の獲物は独り占めという訳だな。馬鹿馬鹿しい…。
ここまでぼんやり取り留めなく考えて、小枯はパチと目を開いた。
「…初枯の奴、まさかあの番を狩ったのか?」
「牝鹿を生け捕って連れ去ったと聞いた」
馬鹿なことを。鹿など経巡に幾らでもいるじゃないか。何故わざわざ和良の里長の鹿など…。
「鹿は戻った」
「戻った?…そりゃ何よりだが…では初枯の賞金の嵩高さは何だ?見せしめか?」
「如何な和良の里長とてたかだか見せしめに500両は出すまい。50も張れば見せしめには事足りる」
