第7章 手筈
「折角来たのにか」
「こういうのは折角とは言わないぞ」
「折角だ」
「…だからお前と問答する気はないんだ…」
「俺も里を出る」
「……」
小枯は三度溜め息を吐いた。
「…前からおかしいとは思っていたが今日のお前は格別だ。何でお前まで里を出る?寝かせろ。回復してから考えさせてくれ」
「俺を信じないか」
何を言い出すんだ。これ以上混乱させるな。
「黙れ」
「俺を信じろ」
「知らん。そういうのは自分で決める。押し付けるな」
「お前は俺と里を出る」
「いよいよどうかしてる。何で私がお前と里を出なきゃならないんだ。私が里を出るとしたら…」
それはお前とじゃない。
言いかけて飲み込み、飲み込んだ言葉が胸でじんわり熱を持つ。先刻飲み下した白湯よりまだ温かい。
小枯はきゅっと身を縮めて目を閉じた。一時怠さも疲れも消えた気になった。不思議な気分だった。
そんな小枯を淡々と眺めつつ、霜刃は黙らない。
「俺は女を好かない」
「だから何だ。知ったことか」
「何故か」
「寝かせろ」
「俺にとって女は一人」
「お前の狭い世界に興味はない。出て行け」
「お前は女だろ」
「男だとでも思っていたか?お前にどう思われようと一向に構わんが言葉には気を付けたがいいぞ」
「お前が女だ」
「私が何だってどうでもいいだろ。私だってお前が何だってどうでもいい。気持ち悪いな。今の私はこう見えて疲れて機嫌が悪い。お前が言ったことを整理して考えるのにも、一旦寝かせてくれ」
ぼんやり眠くなってきた。霜刃に消耗した。霜刃は頭がいいかも知れないが、口にすることが断片的かつ直截的なので疲れる。
南天が初枯の帰りを待たない?私が初枯を探しに行く?里を出て?しかも霜刃と。
何故?
額がひんやりした。
霜刃の手が触れている。煩わしい。
「触るな。邪魔だ」
「随分削れているな」
「ほっとけ」
「寝ろ。急ぎ過ぎた。寝物語に徒然と話してやる」
寝物語って…。頭が痛くなってきた。
「…お前本当は馬鹿なんじゃないのか?」
「知らん。どっちでもいいことだ」
霜刃の手が額から離れた。
小枯はほっとしてうとうとした。
霜刃が去る気配はない。
だがもうどうでもよかった。体が休むことを絶え間なく強要して来る。