第7章 手筈
「俺らならそれを教えてやれる」
雨露がぬけぬけと言う。
「何が目的か知らんが、あんた小枯が欲しいんだろう?ありゃ里にとっちゃ大事な財だ。易くは譲れんのさ」
食えない男だ。霜刃とやらの話を持ち出したのもこちらを揺さぶる餌か。
「客人」
ここでやっと、大枯が腹を据えた様子で姿勢を糺した。
「話を聞いてくれ。聞いた上で俺らを好きに料ったらいい。あんたにとっちゃどうでもいいことなのはわかっている。だがそれでも俺は話す。話させて貰う」
霜刃は無口ではない。
口数が多い方ではない。だが話す。
話してもいいと思った相手には。
今も霜刃は小枯の前で話している。里と初枯の話を。
「お前は里を出るべきだ」
訪ってすぐ囲炉裏端まで上がり込み、端正に正座した霜刃が開口一番言うのに、丸まったままの小枯は溜め息を吐いた。
何故寝転がって丸まっている相手に対して、起きているかどうかの確認すらせずにいきなり声をかけるのか。
何だ、里を出るべきとは。
霜刃を一瞥もせず、小枯は固く丸まったまま。
委細構わず霜刃は話を続ける。
「初枯の話をする」
「……」
小枯はぼんやり目を開けてまた溜め息を吐いた。
それを聞き届けて霜刃はまた話を続ける。
「お前は初枯を探しに行け」
「…探しに行かないでも初枯は帰って来るさ。南天がいるものな」
幼馴染の南天を、初枯は大事にしている。大枯が来春祝言をあげる小桑にするように、大事に大事にしているのだ。
「南天は初枯が戻らぬのを承知した」
霜刃の言葉に小枯は笑った。
「ある筈もない」
「ある筈もないことばかり起こるが世の理よ」
「あるようなことばかりで廻るのもまた世の理だ。どちらが善い悪いではないが、ありふれたものにこそ理は宿るもんだよ。思わせぶりをするな。何が言いたい、霜刃。問答でもしに来たか。悪いが今は全くそんな気になれない」
苛々と体を起こした小枯に、霜刃が白湯を勧める。
「食って寝て気力が戻った様子。何より」
「その気力が失せそうだ。何をしに来た」
「罪を犯した初枯、訳のわからぬ大男、ここに来た俺。ある筈もない事ばかりだ」
「自分を不測の事態に数えるなよ。何なんだ、お前は」
「俺は霜刃だ」
「…出てってくれ」