第3章 小枯
夏の疲れがまだ残っている。
この夏は働き過ぎた。
猟に出る時節以外、小枯は療養所で働いている。年老いて動けなくなった者や、猟や山の事故で元に戻らない程身体を痛めた者を預かるところだ。この療養所は壱の牟礼、弐の牟礼、参の牟礼とある三ツ山のうちの弐の牟礼にある。
今年は夏の暑さが厳しすぎて、山もうだった。
夏の熱で身体を損ね、療養が必要な里人が大勢出て、彼らを涼やかに過ごさせる為に小枯は"身を削って"働いた。
加てて加えて小枯の生家は夏が掻き入れ時の商売をしている。小枯の家族は"身を削って"働く。小枯も例外ではない。
「小枯お前、ちゃんと食って寝てるのか?」
大枯の、頭の上から降って来る声に小枯は顔を顰めた。慣れたこととは言え、上から頭を押しこくられているようで嫌になる。
「食って寝て簡単に元に戻れるんなら誰もうちの診療所に来ない」
小枯だって決して小柄な訳ではない。中背くらいの上背はある。が、如何せん大枯が大き過ぎる。腹立たしい。
「そういう話じゃないの、わかって言ってるんだろう?」
淡々と言われて小枯はますます腹を立てた。
うるさいな。こっちのことよりあっちのことだろ。何だあのお前が分裂したみたいなデカい男は。
後ろを歩く異様な気配に背中がざわつく。
全ッ然尋常じゃないぞ、あれは。
むっつり考え込む小枯に大枯がチラリと気掛かりそうな目を向ける。
「この時期に身体を損なってちゃお前を狩りに連れてくことは出来んよ。それでなくても初枯がいないんだ。今年は霜鎌に助て貰うか?」
「おいおい。馬鹿言うなよ。ならお前はもう猟を辞めるのか?初枯がいない今、霜の連中に猟場を譲ったらいよいよ私らは用なしだ。それなら私は療養所一本で働く。もう猟には戻らないからな」
「誰が辞めると言った?」
「なら他所に獲物を譲るなんて及び腰は止めろよ。お前らしくもない」
妙な来訪者に文を付けられた頭をごしごし擦って小枯は溜め息を吐いた。
身体が重くて怠い。
大枯が顔を曇らせる。
「家の手伝いは程々に出来ないのか」
「は?出来る訳がなぃ…ぅあ…ッ」
眉を顰めて顎を上げた小枯が下生えに足を取られて躓いた。
あたた、転ぶ転ぶ…ッ。
焦って空を掻いた腕がガッと掴まれて、転びかけた体が引き戻された。
「悪いな、大か…」