第7章 手筈
「話を聞く気になったかよ?それともわしらを殺すかい?随分怒らせちまったようだものな」
言葉とは裏腹にのんびり湯呑みの白湯を啜りながら、雨露は作り物めいた難しい表情を浮かべた。
「こいつ相手じゃわしらはひと溜まりもないわな。来春の婚礼を待たずに山に還る羽目になるとは、やあ、全く痛ましいことだぜ、大枯。しかも十万億土の道連れはこのわしときた。気の毒で臍が茶を沸かす」
「止めてくれ。俺はまだ死ぬ気はないぞ」
「馬鹿お前、こいつは獣を殺すんじゃなく人を殺す奴だぞ?なあ、客人?」
雨露に言われて鬼鮫は笑った。
全くその通りだ。笑う以外何が出来る?
「で?殺して欲しいんですか、私に?死にたいならもっと楽な方法は幾らでもあるのに、敢えて私を怒らせて死にたい?酔狂なことですねえ。あなたはもっと賢いものかと思っていましたよ、大枯さん」
「俺は…」
「あんた、暁の人間だろう」
言いかけた大枯を遮るようにトンと炉端に湯呑みを置いた雨露が、いきなり言い切った。
鬼鮫が僅かに顎を引いて改めて雨露を見る。
「…知っていてこれですか。それはまた随分と肝の太い」
世故長けた男とは思ったが、この雨露、外の世界を知っているらしい。
「ならあんたさえその気になりゃ初枯は逃げ切れる。いつかは里に戻ることも出来るようになるかも知れん」
知ったことか。
それが私に何の関係がある?
「小枯が削れんですむ手を授けることも出来る。違うか?」
クソが。
違わない。鬼鮫自身ちらと考えたことだ。
だが小枯にチャクラについて教えるつもりは全くない。
自分のいる曰く言い難い薄暗い世界に小枯を引き入れるくらいなら、鬼鮫は小枯を殺す。殺して内に猫柳を囲い込む。
これ以上小枯を縛って傷付ける責を負わせるなどあり得ない。
「あんた、どうしたら小枯は里を出る気になると思うかね?」
聞かれて鬼鮫は内心詰まった。
小枯は鬼鮫に名前を預けた。
しかし、それが鬼鮫と居るという確約かどうかは別の問題かも知れない。
鬼鮫が里を出ようと手を差し伸べたとき、小枯は嫌じゃない、嬉しいと言ってくれるだろうか。
削れて荒れたあの小さな手で鬼鮫の手をとってくれるのか。
柔らかで優しいあの笑顔で、鬼鮫を受け入れてくれるのか。