第7章 手筈
「ごたつかせてるのはわしばかりじゃない。嫌味ばかりの客人もだろ。話を聞く気もないのならさっさと立ち去ればいいものを、何が欲しくてそこに座り込んでなさる?」
囲炉裏の鉄瓶から湯呑に白湯を注ぎながら、雨露は大枯に顰め面を向けた。
「駄目だ駄目だ。止めとけ。こいつに小枯は任せられんぞ」
ふっと空気が変わった。
「やっぱり霜刃に行かせようぜ。あいつは無口だが頭は切れる。御大層なこた出来ねえかも知れんが小枯と一緒に初枯を探し出すくらいにゃ使えるわ。狩り仲間としちゃ牡丹餅程の太鼓判が押せる」
霜刃。
霜鎌のうち、この小面憎い男が雨露、肝を持って来た軽々とした男が霜降、残るひとり、背の高い男。
あれが霜刃か。
小枯が初枯を探す?
里を出て?
しかも誰と一緒にだと?
「ああ、あんたはもう帰っていいぜ。なあ、大枯。客人は手前の用を足しにご退席だ。おっと、寄り合い所に戻んのはちょっとばかり待ってくれよ?今頃霜刃が小枯に里抜けの話をしてる頃合いだからな」
鬼鮫は腰が浮きかけたのを悟られないよう、敢えて雨露に目線を保って口辺を上げた。
「つまりあなたたちはどう私を利用したいんです?ー私は初枯さんを見つけたらその権利を小枯さんに譲りはしませんよ?」
「分かった気になって一足飛びだな。理屈っぽい奴はこれだから困る。切った貼ったに屁理屈か。どっちも答えは決まってる。あんたの世界は随分単純に出来てるな。やれ羨ましいことだ」
大枯が呆気にとられて雨露を見ている。
鬼鮫に怯まない雨露に、今まで見えていなかった何かを見ているのだろう。
鬼鮫は奥歯を噛み締めて呼気を抑えた。
このふたりは小枯を里から出そうとしている。
初枯を助けて、恐らくは小枯をも助ける為に。
鬼鮫は大枯と雨露を見比べ、"目の前のこと"に集中して気を落ち着けようとした。
その裏に里の事情があるのはわかる。勿論小枯への情も。
問題はそこに鬼鮫を絡めたことだ。 小枯を餌にするつもりか?任務中の鬼鮫を利用して?
そんなものに。
そんなことに。
釣られている自分に鬼鮫は瞠目した。
羞恥、怒り、迷い、焦り。
自分を整理する為、鬼鮫は静かに息を吐いた。
ー霜刃?何だそれは。
ぼろっと思った刹那、猛烈な怒りが湧いた。
何が介入して来ている?