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弥栄

第7章 手筈



半ば嘲るように切って捨てた鬼鮫を大枯は真っすぐ正面から見詰めた。

「あんたが実がないというならそうなんだろう。実際俺は今からあんたを利用しようとしているし、それを悪いとは思ってない」

「…ほう。面白いことをいいますね」

鬼鮫は目を細めて大枯を、そして雨露を見た。面白そうに2人を見比べる雨露の顔は、天秤が右に傾くか左に傾くか、博打の目が半と出るか丁と出るかを見守るような不遜で興味深そうなものだ。

「何でこの人がここにいるんです?この人たちとあなたたちは不仲なんじゃなかったんですか」

鬼鮫の問いに雨露が肩を竦める。

「凍み鎌と霜鎌は代々そんな簡単な仲じゃねえのよ。仲の良し悪しで片づけられねえことがゴロゴロしてんのは山の下だって同じ筈だがな」

「成る程。で?それが私に何の関係が?」

「凍みと霜はあんたにゃ関係ねえわ。むしろ首を突っ込んでこれ以上ややこしくしないで欲しいから、そこんとこは切り離して話を聞いてくれんかね」

ふたりのやり取りをよそに大枯は何か整理するように考え事している。思慮深く沈んだ目は鬼鮫も雨露も見ていない。ひたすら内側に潜り込んで、何かの答えを出そうとしているようだ。

「…客人」

「…いい加減で名乗らせて貰ってもいいですかね?客人は私の名前じゃないんですよ」

「名乗らんでも話は出来るし付き合いも出来よう?実際あんたは客人のまま大枯と小枯といたんだし」

雨露に言われて鬼鮫は眉をあげ、ふっと笑った。

「名前があなたたちにとって大切なものだってことは理解してますよ。ですが安心して下さい。私が相手を特別だと思わない限り、私の名乗りはただの名乗りです。…私は名前そのものより、相手をどう思って名乗るかに重きを置くのでね」

里の文化を肌で知るわけでもない鬼鮫にはこういう理解しか出来ない。
この二人に名乗ったとして、それは小枯に与えた名乗りとは全く違うし、あんな名乗りはもう誰に与えることもないだろう。
小枯が受け取った鬼鮫の名前は、もう以前の鬼鮫の名前とは違うものになった。

「ですがまあ、嫌がる相手に無理に名乗るような無粋な真似はしませんよ。知らない方がいいこともある」

鬼鮫に深入りしないのは悪くない判断だ。

鬼鮫は名実ともに胡乱な男なのだから。
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