第7章 手筈
里での小枯は"時雨"だった。
これは有り難いことだ。たまたま持って生まれたもので里の役に立ち、里人に喜ばれる。自分は恵まれていると思う。
けれど年経る内に段々わからなくなってきた。自分が"小枯"なのか、"時雨"なのか。
時雨に削られた疲労が常に付き纏い、尋常ではない量の食事や水分を消費する。年中通して時雨を使い、喜ばれ、疲れ、食べて寝て、また時雨を使う。
ただ笑い、ただ話し、他人と深く関わるほどの気力も湧かず、ただ時雨を、自分を消費する。
誰と話しても誰に触れても触れられても、何も感じない。
自分が何かの容れ物になっているような気がしてきた。
容れ物になっているのに空虚。
目を見開いて小枯は考え込んだ。
馬鹿なことを考えている。
私は恵まれている。
大枯初枯だって家族だって、私を心配してくれる。療養所の人たちも里の人もそうだ。
ただ凍み鎌以外は誰も、時雨をもう使わなくていいとは言わなかった。
凍み鎌のふたりは小枯の時雨を制御するよう、よく言ってくれていた。ペースを配分しなければひと冬狩りを続けられないから。
凍み鎌を抜けろとは言わない。
"時雨"は今の凍み鎌の狩りの流れに組み込まれてしまっているから、言いたくても言えないのだ。
里や療養所の人たちは、大変だと、頑張れよと言ってくれた。いつも助かる。ありがとう。
でも時雨を欲しがることは止めない。
これは私の僻みだ。
わかってくれないと駄々を捏ねようとしている。情けないことだ。
小枯の目から涙が流れた。
でも、辛い。
何故だろう。ただ辛い。
誰かに私を見て欲しかった。
"時雨"ではない、ただの"小枯"を見つけて欲しかった。
そんな相手に出会えたら、きっと名前を預けようと思ってきた。
小枯は涙を拭いて蹲った。
囲炉裏の鉄瓶が静かに沸き立って緩やかな湯気を吐いている。
部屋は温かく、外は晴れ。初冬の澄んだ日差しが差し込んで明るい。
小枯は溜め息を吐いてまた眠りに落ちた。
村長の家には大枯と、何故か霜鎌の雨露がいた。
「呼びだてしてしまってすまない」
先ずは申し訳なさそうに言った大枯は、何かしら思いつめた顔をしている。
「本当にそう思うなら始めからあなたが出向いて来る筈でしょう。実のない謝罪は要りませんよ。話が拗れるだけだ」