第6章 名乗り
胸苦しい程この女が欲しい。
いっそ抱き壊して身体に取り込みたいほど、この女を、小枯を望んでしまっている。
温かい。柔らかい。手を離したくない。
ずっと。
ずっとだ。
鬼鮫は顔を上げて小枯を見た。
思った通りの優しい笑顔。疲れてやつれた顔に浮かぶ柔らかな笑顔。
優しい猫柳。柔らかな猫柳。
靭やかで強い猫柳。
目を細めて小枯が鬼鮫を促す。
鬼鮫は小枯の手を離し、頬に触れた。笑い皺の寄る目尻を指先で撫で、すっと息を吸い込む。
「…鬼鮫です。干柿鬼鮫といいます」
「きさめ?何と書く?」
「鬼に鮫と書いて鬼鮫」
「鬼に鮫…」
鬼鮫の掌の中、小枯はちょっと考え込み、それから至極真面目な顔で鬼鮫の目を見た。
「良い名だ。親が守りの願いをかけた強い名前だな」
鬼鮫の中の何かが、また引き攣れたように痛んだ。
「良い名を知れた。その名にかけて私はあんたの幸せを願おう。恙無くあれ」
鬼鮫は小枯を抱き締めた。
小枯も鬼鮫の背中に手を回す。
小枯が鬼鮫の胸に額を預けて囁いた。
「ありがとう。鬼鮫。…私の名前は弥則。弥栄に則すると書いてみのり。どうか受け取って、失くさないでくれ。私をあんたに預けよう」