第6章 名乗り
霜降は約束通り、握り飯を大盛り持って来て鬼鮫に渡した。
「水は裏手に井戸がある。けど出来るなら白湯を飲ませてやった方がいいぜ?身体をあっためてやんなくちゃな」
親切に言ってから鬼鮫の顔を見、笑う。
「余計な世話だったかよ?まあ小枯によろしくな。あんまり無理すんなって伝えてくれよ」
誰が伝えるかと思いつつ、鬼鮫は黙って頷いた。
小枯が目覚めたらなら結局伝えてしまうだろう自分が腹立たしい。
じゃあなと手を振って軽い様子で去る霜降を見送り、振り向いた鬼鮫は囲炉裏に頭を突っ込みそうな格好で寝ている小枯を見止めて頭を抱えたくなった。
いよいよ縛り付けるしかないかも知れない。
「…本当にいい加減にしなさいよ、あなたは…」
家に南瓜をとりに行くと言っていたからには一人暮らしをしているのだろうが、一体毎晩どうやって身の安全をはかっているのだ。
「…うぅん…」
鬼鮫に身を起こされて小枯が唸った。目を開いて鬼鮫を見る。
隈の差した目が真黒い。
瞬きする瞼を縁取る薄く目立たない睫毛が思いの外長い。
あれだけ気安く近く寄って来た小枯の目を実は初めて間近く見た。
鬼鮫は、小枯の肩に回した手に一瞬力を入れた。小枯が顔を顰める。
「痛い」
「…気付きましたか」
強いて不自然なく目を逸らし、鬼鮫は小枯から離れた。
土と針葉樹、一度意識してしまった匂いが鼻に纏わる。
「…うん…?どうやら気付いたらしいな…」
いかにも寝起きらしいぼんやりとした様子で、小枯は額に手を当てた。
「いや、しかしまだ眠い…」
「食べてから寝なさい。そのまま寝直しては身体に毒だ」
「何かあるのか?」
「霜鎌の人から肝を預かってますよ。たべますか?」
「霜降か。それは有り難いことだが…肝は飽きたなぁ…。酒を飲みながら旨いものが食いたい…」
ぼんやりと小枯が呟いた。
これも多分独語だ。
鬼鮫はじっと小枯を見た。
「食べさせてあげましょうか?」
「うん?」
「私と来るなら旨いものを食べさせますよ」
「腹いっぱい?」
「ええ。いくらでも」
「酒も?」
「好きなだけ飲んだらいい」
「腹が膨れたら寝てもいい?」
「好きにしたらいい。あなたが寝飽きるまで寝なさい。ー私が側にいますから」
「……」
小枯が霞んだ目で鬼鮫を見た。
「それはいいなぁ…」